柳家さん喬の「雪の瀬川」下 ― 2025/03/21 07:09
さん喬「雪の瀬川(下)」の(下)<小人閑居日記 2012.1.27.>
年の瀬が迫って、毎日、天気の日が続く。 忠さん、雨が降らないね。 除夜の鐘、元旦、七草、松が取れても、天気が続く。 一月の中頃、黒い雲が出て、白いものがハラハラ。 忠さん、雪だ、来るね、来るだろ。 借金取りですか。 そうじゃない、瀬川、雪でも来るだろう。 お勝は、大家さんの親戚に初産の娘さんがいて、泊まり込みで手伝いに行っている。
夕方になると、江戸中が真っ白になった。 いま、何どき? 暮六つを打ちました。 来るね、来るって言っておくれよ。 いま、何時? あれから一と時も経ってません。 お見えになるといいですね。 いま、何時? 今、暮六つから二た時ほど過ぎた所です。 忠さんは、本を書き写している。 古河(こが)で大旦那に言われ、毎晩、字を教えて頂いたおかげ。 本を書き写して、五文になる。 いま、何時? ほら、何時って、書いちゃった。 若旦那、おやすみなさいな。 いま、何時? 忠三は、掻巻を掛け、蜜柑箱の上に寝たふりをする。 忠さん、いま、何時? 寝ちゃったのか。 鶴二郎も、蒲団に入り、寝入ってしまう。
雪は、降り続いている(下座で、雪が降る太鼓の音)。 サクッサクッ、忠三さんのお宅は、こちら様でございますね。 ここを、お開け下さい。 只今、と、凍てつく戸を、がさがさっと開ける。 一丁の駕篭が、闇の中を逃げるように消えて行く。 お待たせいたしました、どちら様で。 頭巾をかぶり、大小を手挟んだお侍。 大小を鞘ごと土間へ置くと、合羽(?)を脱いだ。 燃えるような緋縮緬に(知識がなくて、大事な、ここの着物の描写が書けないのが残念)、御納戸献上(博多)の帯、緑の黒髪があふれ出た、まるで雪女郎が降りて来たような美しさ。 忠三さん、ざあますな。
鶴二郎が、転がり落ちるように、土間へ。 瀬川、瀬川、よく来てくれた、寒くはないか、命をかけて、よく来てくれた。 私のために、辛い、切ない思いをさせました、お許し下さいませ。 切ないことも、苦しいこともない。 寒くはないか。 あい、寒くはござんせん。 舞い込んだ雪が、虫がとまるように瀬川の黒髪について、すーーっと消えて行く。 鶴二郎が、瀬川の肩に手をかけ、二人は土間に座り込む。 二人の嬉しそうな姿を、忠三が見つめている。
二人は、江戸中の雪が解ける頃、夫婦になることを許されるのだった。
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