正蔵の「ぞろぞろ」2007/04/02 06:35

 正蔵は、ひょいと、軽く出た。 白い着物が、見るからにいい絹物(?)で、 真っ白ではないこの白は「素色(しろいろ)」という日本の伝統色だろうか。 恰 幅よく立派、浅黒い顔に頭もすっきりとして、いかにも張り切っている。 そ れがトリの前という、自分の役割をよく心得ている高座だった。 風格が出て きたというと、少しほめすぎかな。

 マクラもなく、いきなり根岸の里のお稲荷さんから話出す。 神様が縁結び に出雲へ出張した神無月のまま、留守が続いて(このへん、よくわからなかっ た)、お社が荒れて、半年にもなる。 参詣客もなく、門前の荒物屋も商売あが ったりである。 たしかふつう老夫婦でやる「ぞろぞろ」の新演出か、親孝行 で信心深い娘を登場させる。 ちょうど、神様が帰ってきたところに、その娘 がお酒を一升、それも大吟醸を持って、お参りに来る。 半年前から草鞋一足 売れない商売の繁盛と、父親の長生きを、心の底から願って、祈る。 そのご 利益で、たった一足しか在庫のないはずの草鞋が「ぞろぞろ」と下がる奇跡で、 行列の出来る大繁盛。 前の床屋が真似をして、という噺である。