試作マクラ「笏(しゃく)」2007/04/10 07:10

 笏(しゃく)というものがある。 古くは一万円札の聖徳太子が、最近では 藤原紀香と結婚した陣内ナニガシが手に持っていた、あの板である。 神主さ んも持っている。 「こつ」と読むと、「骨」に通じて縁起が悪いので、長さが ほぼ一尺であるところから、「しゃく」と呼んだという。 裏には紙を貼り、備 忘のために儀式の次第など書き記しておいた。 今日の「カンペー」である。

 オウム真理教騒ぎの頃に罪を犯し、10年間刑務所にいて、最近出所した男が いる。 電車に乗って、驚いた。 前の座席に座っている人の何人もが、小型 の笏を手に持って、目の前に掲げ、真剣に見つめている。 何やら念じている ようでもあり、祈っているようでもある。 まわりを見回すと、ほかにも沢山、 笏を見つめている人がいる。 携帯に便利なように、折りたたみ式になってい るらしく、お守りを沢山ぶらさげている人もいる。 男は、刑務所に入ってい る内に、神道系の新興宗教が流行りはじめたのだろう、と考えた。 前の座席 の7人の内、4人が笏を手にしている。 日本人の半数を超える、ものすごい 流行だということになる。 女子高生などは、全員が笏を持っている。 この 新興宗教は、若い層にも浸透しているのだ。

 とつぜん音楽が鳴った。 若い女性が、バッグから笏を取り出し、耳にあて て、何かしゃべり始めた。