二つの補陀洛島、中国・普陀山と日本・伊島2011/12/18 04:23

 前置きが長くなった。 神野富一(かんのとみかず)甲南女子大学教授の「海 の補陀洛信仰」だが、「二つの島から」という副題がついている。 自ら「国文 学の徒」とおっしゃる神野教授は、「島」を課題にしてきたという。 栂尾高山 寺の明恵上人は、紀州の小島を愛し、「島」に手紙を書いたそうだ。 「島殿へ」、 その後、お変わりありませんか、その節は心ゆくまで楽しませてもらいました、 島は毘盧遮那如来と同じ、最高の友人、と。 神野教授は、その想いがわかり、 「島」を見、「島」から見るのだという。

 補陀洛山については『華厳経』「普門品」などに記述がある。 補陀洛山は、 インドの南方海上にあり、観音菩薩が住して説教している、清浄で豊饒な島山。  補陀洛信仰は、その補陀洛山への信仰で、観音信仰の一形態。 海域では海難 救助・航海安全の神として海上交通者・海民に信仰された、これを神野さんは 「海の補陀洛信仰」と呼んでみたいという。

 インド人、中国人、日本人が、補陀洛山に魅せられてきた。 インド(南端か ら見たスリランカの関係)の写しとして伝播・展開、各国各地の補陀洛が成立し て行った。 ラサ(チベット、マルポリの丘のポタラ宮、ダライ・ラマ(観音の 化身)の住居・廟所)・普陀山(中国東部)・洛山(朝鮮東海岸)・那智(補陀洛山)・ 日光(男体山=二荒山)。

 神野教授は二つの島、中国の普陀山と、日本の伊島を取り上げて、説明した。  実際に行ってみると、二つの島は、観音信仰・補陀洛信仰の島であり、自然相(た ぶの木が群生)、南方性、辺境性、海の道(南海ルート)、漁業、信仰の民衆性な どで、相似性がある。

 普陀山は、中国東方の杭州湾の沖、上海から船で行く舟山群島の一島。 周 囲22キロ、面積約12.5平方キロ。 観音信仰一色の島で、島の幾多の自然の 山・泉・洞窟・奇岩怪岩が観音のゆかりと伝えられ、普済禅寺・法雨禅寺・慧 済(えさい)禅寺の三大寺を始め三十もの寺院が散在する。 南朝梁の武帝の時 期にその基本が形成された。

 伊島は、一つの小補陀洛で、四国最東端の蒲生田(かもうだ)岬から東に5キ ロ余の海上(紀伊水道)にあり、危ない海域だが30分で渡れる。 周囲約12キ ロ、面積約3平方キロ。 空也上人来島伝承があり、『空也誄(るい)』にいう湯 島と考えられ、松林寺(しょうりんじ)は空也が刻んだと伝える十一面観音を本 尊として、それを中心にした観音信仰が古来盛んである。 男の海士が、伊勢 エビなどを獲る。