柳家燕弥の「岸柳島」2016/04/07 06:16

 袴を穿いた右太楼改メ柳家燕弥(えんや)、落語研究会は真打になって初めて、 柳家勢揃いの中になった、と。 前座でめくりをやっていたが、慣れない、場 内が暗い、以前はもっと暗かった、二ツ目はぜんぜん受けない、上がって来る 時の静寂、どうも慣れない。 今日、初めての体験をした。 警視庁に電話し た。 本部の見学ツアーがあって、娘のママ友が三人連れて行くというので、 俺も行きたいというと、じゃあアンタが連れてってくれということになった。  ママの名前を変更するので電話、意外と軽く出る。 ウチの師匠(権太楼)の ところに電話したよう。 ご職業は? ふだんは自営業とか言う、先輩の中に は弁護士と言うのもいるが、落語家です。 素晴らしい、ご商売で。

 「さあ、ことだ」という題詠の川柳に、<さあ、ことだ 研屋の親父気が狂い ><さあ、ことだ 下女鉢巻を腹に締め><さあ、ことだ 馬の小便渡し舟>、 量が違う。 厩橋が、お厩の渡しといった頃の話で。 待て待て待て、と侍が、 ぽーーんと渡し舟に乗り込んで来る。 寄れ寄れ、人間の形をして、生意気な。  25,6、真っ黒で、真っ四(ち)角な顔、面擦れ。 銀の拵えの煙管で、煙草を 喫い、舟べりでポーーンと叩く。 雁首がスッポーーンと抜け、川の中へ、ブ クブクブク。 船頭、そこだ、戻せ。 何でございます。 おあきらめを、流 れが速くて、泥深え、ご愁傷様で。 侍は、顔を真っ赤にして、唸っている。  船中のみんな、あらぬ方を見ている。

 52,3の、唐桟の着物に小倉の帯、頭は吉原かぶりにして、見るからにそれと わかる屑屋、ちょっとお通しを。 お武家様、惜しいことをなさいましたな。  吸い口だけでは、お役に立ちませんでしょうから、私にお払い下げ願いません でしょうかね。 雁首の出物もありまして、後家同士で商売になることもござ います。 値よく頂きます、「屑――イ」。 その方、拙者の品に、「屑――イ」 と申したな。 ご勘弁下さい。 勘弁ならぬ、その方の雁首を落としてくれる。  遠慮するな、手討ちにしてくれる。

 えらいことになったな、屑屋だけに、ボロを出したな、とかワイワイガヤガ ヤ。 年の頃62,3、ごく人品のいいお武家様、勤め帰りのお旗本といったとこ ろ。 身共も、共にお詫び致すから、勘弁してやったらどうか。 どうか手討 ちはお止まり願いたい。 屑屋に成り代わって、お詫び致す。 では、真剣勝 負の立ち合いをなさるか。 迷惑千万。 勘弁ならぬ。 では、仕方がない、 お相手を仕ろう。 舟を元の岸に漕ぎ帰せ。

 若侍が仕度をして、舳(みよし)に足をかけて立ったところは、出来損ない の菊人形のよう。 老武士は胴の間で、槍を二度三度しごいて、すっーーと立 つと、海老が背も伸びて、まるで舟から生えた様。 舟が元の岸に着こうとす ると、若侍がポーーンと岸へ。 老武士が槍の石突きで岸壁を押したから、舟 は川の中へ。 そういうことですか、と船頭は舟を漕ぐ。 そういうことにな りましたんで、皆様、ご安心なすって。 若侍に、何か言ってやりましょう。  泳いで来ませんかね。 泳げませんよ、泳げるなら、とっくに飛び込んでいる はずだ。 俺と立ち合うか、馬鹿、馬鹿! 宵越しの天ぷら! 何です? 揚 げっぱなし。 馬鹿! ドジ! 間抜け!

 着物を脱いで、飛び込みましたよ。 泳げるんだ。 舟底をえぐりに参った のであろう。 五、六間先に、あぶくがブクブク。 若侍が顔を出した。 舟 底をえぐりに参ったのか。 なあーーに、落とした雁首を拾いに参った。