小里んの「三人兄弟」後半2016/04/11 06:29

女の子、残っているのかい。 一番上(かみ)の女は、何てんの? 八重さ ん。 真ん中の色の白い、水に落ちたおまんまっ粒みたいのは? 口が悪いね、 桜さんだよ。 奥は? たよりさん。 ご無沙汰して、すみませんって名だな。  煙草を一服おつけなさい。 登楼(あが)らないの? 登楼らない。 煙草泥 棒、この素見(ひやかし)。 泥棒はねえだろう、素見は廓の上の客というじゃ ないか。 このやりとりが好きなんだ。 行きてえな。

馴染みの店の前へ行く。 そこ行くのは、吉っつあんじゃないか。 通り過 ぎるのが、難しい。 行きたいような、行きたくないような、柳家小里んの独 演会の切符をもらったよう。 登楼んなよ。 銭がない。 簪(かんざし)を 抜いて、紙で油を拭き、あの子や、いつものところで、まげてきておくれ。

一本つけてくれ、いいじゃないか。 寝たらいいだろう。 飲みてえんだ、 パンと殴る。 ワーーッと泣く。 おばさんが飛んで来る。 何を喧嘩してる の。 この妓、お前に惚れてんだよ、こないだも柳島の妙見様に行きたいって 言ってね。 途中の荒物屋でね、年が明けたら吉さんと一緒になる、茶碗やお 箸、どれがいいかって言ってね。 おばさんも、一杯どうだ。 まだ残ってい る妓がいる、あとで来るから。

二人っきりになると、気まずいな。 さっき、あたしを殴って、もう一つ殴 ろうとしただろう、死んでもいいと思った、いい形だったよ、音羽屋って言お うかと思った。 行きてえな、吉原。

あれ、戸が開いている。 兄貴たち、二人ともいないぞ。 ちきしょう。 吉 松は乱暴だから、屋根から飛び降りる。

明くる日、孝太郎が、柳橋で銀之助と会った。 銀之助、なんでここにいる んだ。 兄貴がお手水しているスキに、出かけた。 そこへ吉松も来る。 お う兄貴、なんで二人でいるんだ。  勘弁しておくれよ。 まあ、三人出られ てよかったよ。

朝早いのに、もう親父は帳場で一服している。 お兄さんから、どうぞ。 え ーッ、お早うございます。 二階にいる者が、何で表から入って来るんだ。 昨 夜はお謡の会がございまして…。 二階へ行け。 銀之助兄さん、どうぞ。 え ーッ、代わり合いまして。 昨夜は、運座がございまして…。 運座が一晩中 あるか、早く二階へ行け。 おい親父、いま帰って来た。 オラ、女郎買いに 行って来た。 いやにもてて、一晩中寝かせなかった。 寝てるから、飯が出 来たら呼べ。

お婆さん、ウチの身代、譲る奴、決めました。 一番下の吉松だ、あいつだ けが、正直なことを言った。