マッサージの先生に漱石『猫』を読む2016/04/24 06:48

 2000(平成12)年いっぱいで、ガラス工場の窯の火を落とし、2001(平成 13)年の初めは土地の売却、借入の返済、従業員の退職金の支払いとその後の 手配などを済ませた。 それが一段落した後、兄と手伝いに来てくれた元従業 員二人とで、ブルーシートで包み庭に積み上げてあった在庫の処理をした。 腰 を痛めて、家内の幼なじみに紹介された鍼灸マッサージの先生に治療に来ても らった。 以来、毎月一度治療に来てもらって、15年経つ。 30代になった ばかりだった紅顔の先生が、50に近くなるという。 勉強家で、いろいろの講 習会で学んできた知識を生かして、施術をしてくれる。 夫婦二人とも、稀に 見る体の硬さだなどと言いながら…。

 今月の治療日、たまたま朝日新聞連載中の夏目漱石『吾輩ハ猫デアル』で、 苦沙弥(くしゃみ)先生が胃病の治療に、タカジヤスターゼのほか、人に聞い たいろいろの方法を試みる話があって、「按腹揉療治(あんぷくもみりょうじ)」 というのが出てきた。 それで、その部分を読んで聞かせる。

 「××に聞くと按腹揉療治に限る。但し普通のではゆかぬ。皆川流という古 流な揉み方で一、二度やらせれば大抵の胃病は根治出来る。安井息軒も大変こ の按摩術を愛していた。坂本龍馬のような豪傑でも時々は治療をうけたという から、早速上根岸まで出掛けて揉まして見た。ところが骨を揉まなければ癒ら ぬとか、臓腑の位置を一度顛倒しなければ根治がしにくいとかいって、それは それは残酷な揉み方をやる。後で身体が綿のようになって昏睡病にかかったよ うな心持ちがしたので、一度で閉口してやめにした。」

 わが家の先生も、整体というのだろう、骨の位置がずれているといって、骨 を揉むというより押す。 臓腑の位置を動かすこともやるらしい。 でも、60 の年から15年、まもなく後期高齢者になるまで、何とか元気にしていられる のは、毎月身体を診てもらっている先生のおかげもあるのだと思う。