日々の暮しの中に美を2006/09/22 07:44

 松下電工汐留ミュージアムに「富本憲吉のデザイン空間」展を見に行った。 (24日まで) この題名だが、英文の「インテリアデザイナーとしての富本憲吉」 の方が分かりやすい。 陶芸家、人間国宝、文化勲章受章者として知られる富 本憲吉(1886-1963)が、東京美術学校の図案科で建築を学び、卒業制作で「音楽 家住宅設計図案」を描いたのを皮切りに、日常の暮しの中のあらゆる面に、美 しいものを取り入れることを考え、実践した人だったということが分かる展覧 会だ。 陶芸は、その一分野なのだった。

 美術学校卒業後、ステンドグラスを修得しようとロンドンに留学、ウィリア ム・モリスのデザインと思想に影響を受けた。 帰国後、奈良・安堵村(あんど むら…この名がいい)の旧家である実家の自室を改造し、建築という総合芸術の 中に含まれるあらゆる物について、さまざまなデザインの試みを、東京に発信 した。 壁を飾る版画やタピスリー(刺繍までやっている)、襖や団扇・扇子の 絵、美術雑誌の表紙やカットの図案等々。 大阪・平野町の柳家書店からはト ータル・デザインを引き受け、のれんや店員のハッピ、木版画の包装紙まで デザインしている。 その時期、楽焼で徳利やジョッキ、鉢や皿、コーヒー碗・ 皿、壺やペン立を制作しているが、薊や葡萄、鳥や草、安堵風景など後の陶芸 家・富本憲吉の好んだ意匠がすでに登場している。

 1914(大正3)年、画家の娘という一枝夫人と結婚、日々の暮しに美しさを求 めるその姿勢は、さらに進み、磨きがかかった。 陶器の絵付けを夫人もした らしく、夫妻合作の陶器絵巻、合作の羊歯模様半襟もある。 染付の湯呑やコ ーヒーセット、万年筆皿やキャンドルスタンド、白磁のコーヒーセットなどが、 そのハイカラなライフスタイルを思わせる。 さらには障子や襖の引き手、果 ては小さくかわいい電灯のひもの先の飾り玉まである。 極め付きは、二人の 女児のために東京から家庭教師を呼んでつくったという「小さな学校」の机と 椅子だ。

  この展覧会を見た人は誰でも、あらためて「日々の暮しの中に美を」と、強く思うことだろう。 富本憲吉はそれを自ら実践し、量産して普及することにも努めた。

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