「失敗は伝わらない」2006/09/12 07:09

 大事だと思う話が多いので、まだ畑村洋太郎教授の「だから失敗は起こる」 を続ける。 第四回は「失敗は伝わらない」だった。 ハインリッヒの法則(1: 29:300の法則)というのがある。 アメリカの保険会社の調査部長が、労災事 故の統計調査をして発見した。 1件の大災害の陰に、29件の同じ原因・同じ 理由の小さな事故が起こっている。 さらにその陰に300件のヒヤリとする出 来事があるというのだ。 六本木ヒルズの回転ドア事故でも、死亡事故が起こ る前に32件の事故が起きていた。 内11件は救急車で病院に行き、21件は医 務室や事務所で処置した。 使い方が悪い、たまたまそうなっちゃったと、考 えられていた。 そして33件目に、死亡事故が起きた。

 2003年3月8日、営団地下鉄日比谷線の中目黒で死者5人、負傷者53人を 出す脱線事故が起こった。 原因はセリ上がり脱線、左右の軸重のアンバラン スによる脱線だった。 以前、他社で同じ事故の経験があったが、その情報が 伝わっていなかった。 それは横浜で無人の電車がホームの車止めにぶつかる 事故だったが、原因が究明され、その会社の安全責任者は電車全ての軸重のア ンバランスを10%以下に抑える工事を実施し、その車両工事をやらないと同じ 事故が起こるということを、日本中の私鉄に連絡した。 ところが、まったく 同じメカニズムの事故が起こってしまった。 みんな自分の所は関係ないと思 っている。 学ばない。 失敗の情報は、知識にしないと伝わらないのだけれ ど、それを欲しいと思う人にしか、伝わらない。 日比谷線の事故は、それが 典型的にあらわれた残念な例だと、畑村さんは言う。

 津波による大災害が起こっても、時間が経つほどに関心を払わなくなり、忘 れていく。 無関心と、傲慢さが増えていく。 30年ほど経つと消えていく。  2000年6~7月の雪印乳業を破綻させた食中毒事件にも、1955(昭和30)年の都 内小学校の給食用牛乳で同種の食中毒事件を起こした経験があった。 雪印は その後、事故の教訓を社員教育で伝えてきたが、30年後の1986(昭和61)年に 打ち切っていたのだった。

 人間は見たくないものは、見ないようにしようとする弱い者だが、強い意志 と勇気を持って、失敗の原因を究明し、分かったことを、自分たちの活動に生 かさなければいけない。 それをやらないと、もっとひどい失敗が起こる。(失 敗の拡大再生産) 小さな失敗の時でも、失敗に学び、不必要な失敗を起こさな い努力を続けなければならない。 と、畑村洋太郎教授は説く。