「組織が失敗を呼ぶ」2006/09/13 06:31

 畑村洋太郎教授の「だから失敗は起こる」第五回は「組織が失敗を呼ぶ」。  2005年4月25日、JR西日本・福知山線の尼崎で脱線事故が起こり、死者107 人、負傷者555人を出した。 オーバーランを起こし、1分20秒遅れで伊丹 駅を出発した事故電車は、スピードを上げて尼崎に向った。 畑村さんは、事 故の時間に尼崎駅に立って、ここが三つの線(東海道線・東西線・福知山線)の 乗換駅で、朝夕相互乗り換えの待ち時間の短さを求められるシステムになって いることを見る。 事故車両の運転士にとって1分20秒の遅れは致命的なも のだった。 経済性を求める企業運営が、私鉄などとの競争の中でこういうシ ステムをつくった。 利便性を求める社会からの要請が、ものすごく働いてい る。 経済性を追求するうちに、一番大事な安全性へ目を向ける程度が低くな って、脱線事故につながったのではないか。 利便性の背後にある危険性も、 同時に考えなくてはいけない、と畑村さんは言う。

 この脱線事故は、さらに大きな事故になる可能性があった。 後続、対向の 電車が迫っていて、間一髪で二重、三重の衝突が回避された。 事故が起きて から、誰も電車を停める連絡をしていなかった。 そこに組織の中での情報伝 達の問題、組織運営全体の問題があったことがわかる、と畑村さんは指摘する。  脱線した電車には、緊急時に電波を発信して付近の列車を停める「防護無線」 があったが、その信号は発信されなかった。 電車を停めたのは、踏み切りの 非常ボタンを押した通りすがりの主婦の機転だったという。 踏み切りの非常 ボタンに連動した「特殊信号発光機」が点滅し、対向車線の特急が停まり、そ の「防護無線」が作動して、付近の列車が停まった。 脱線した電車の「防護 無線」の信号が発信されなかったのは、装置にスイッチが入っていなかったか らだった。 車掌はきちんと発信の動作まではした。 この電車では、電源を 「常用」から「緊急」に切り換えないと、作動・発報しないようになっていた。  福知山線の車両の6割は、切り換えなくても作動・発報するようになっていた が、事故車両は切り換えの必要があった。 それが周知徹底していなかった。  マニュアル(規定)がなかった。 車掌がまずすべきだったのは(発信の動作はし ているので、やむをえない面もある)、発炎筒を持って走るなどの具体的行動だ ったろうが、指令との連絡とその指示での現場の確認にかかりきりになってし まった。 ここにも、実態がどう動いているか、確かめることをやっていない、 組織運営不良、組織の問題そのものが、表れている。