英訳『福翁自伝』は、新訳の時期か2007/11/10 06:38

 ハーバード大学名誉教授のアルバート・クレイグさんは「『福翁自伝』: 欧米 人の観点」という話をした。 『福翁自伝』は、愉快な本、日本の転換点とな った激動の時代をあざやかに伝えている。 普通の自伝は1/3しか面白くない。  若い時代の話は面白いが、その後はたいてい、つまらなくなるからだ。 福沢 は賢明だった、若い時、青春時代しか書いていないから、とクレイグさんは言 った。

 1934年に最初の出版があった清岡暎一訳“The Autobiography of Fukuzawa Yukichi”について、その翻訳はだいたい正確で、日本研究者の多くが読んだ 意義を認め、一定の評価をしつつ、70年以上を経て、新たな翻訳をする時期で はなかろうかと、いくつかの問題点を、原文と英訳の例をあげながら指摘した。  (1) 口語体の『福翁自伝』が、英訳では文語体になっている。 文学研究者 のいわゆる“voice”(声。「肉声」か)の、生き生きとした所が失われている。  (2)家族に関する事実が、変えられている。 例えば「私の父は学者であっ た。普通(あたりまへ)の漢学者であって」の、「普通の漢学者」が省かれてい る。 (3)幼少期に幸福であったことを強調している。 「少年の時……至 極活発」も、「家風は至極正しい」も、“a lively happy child”、“a happy one (home life)”となっている。 (4)年を取ってから書いた自叙伝の記憶違い、 事実の齟齬を、註釈などで言及すべきではないか。 たとえば『自伝』では幕 府に批判的に読めるが、福沢は実は佐幕で、それは長州征伐を勧めたことや、 「大君のモナルキ」にあらわれている。