古今亭志ん陽の「化物使い」後半2018/07/31 07:10

(ここで、実は私、突然の腹痛を覚え、演者とお客様方に申し訳なかったが、 601回にして初めて中座した。 杢助が、もう主人でも家来でもないから申し ますが、あなたは人使いに無駄が多い、豆腐、油揚げ、卯の花、一度に言えば いいのに…。 千束屋に言っても駄目だ、お礼奉公してやる。 引越しの当日、 碁会所でも行って来て下さいと言って、日の暮れまでに、杢助が引越しを済ま せた。 そんな杢助に感心した隠居が、本を繙いていると、どこかで、鐘がボ ォーーーン。 床敷いて、寝るかな。 ゾォッーとするぞ、風邪か。 何だ、 そこにいるのは、子供じゃないか。 顔上げてみろ、一つ目小僧だ。 お前か い、この家に出て来る化物ってのは。 そこへ座れ、見事に一つ目だな、ベロ を引っ込めろ。 キリッとした顔じゃないか、どっちが目尻だ。 膳を片付け なさい。 流しへ持って行って、洗いなさい。 手桶に水汲んで、茶碗なんか 浸して、手拭でよく拭くんだ、ザルにふせるんだよ。 それから布巾で拭くん だ。 ピョンと飛べ、食器棚に入れろ。 水が散らばっている、雑巾で拭け。  と、いう展開だったと思うが、聴き損なった。 戻って、一番後ろの席に座っ て聴く。)

蒲団を敷け、枕もだ。 後ろに回って、肩を叩け。 杢助より上手い、手が しなる。 お前、いいが、もっと早く出ろ、それから、ゾォッーとさせるのは なしで出ろ。 あれ、消えちゃったよ。 いいな、千束屋に頼まなくていい、 飯は食わないし、給金もいらない。

ゾォッーとさせたな、家が揺れるぞ。 三つ目の大入道だよ。 お前が小僧 の代わりか、ゾォッーとさせるな、小僧に聞かなかったのか。 大き過ぎるな。  水をくれ。 蒲団を敷きな。 いやです。 いやがるんじゃない。 煙草盆を 持って来てくれ。 後ろに回って……、ああ、後ろはいいや。 大き過ぎるな、 お前はいっぺんでいい、後は小僧を寄越してくれ。 目、三つはいらないだろ う、一つ小僧にやってくれ。 いなくなったよ。

早く出たな、また、ゾォッーとさせて。 今晩は、女だよ、いいね。 顔、 見せて。 ノッペラボウだよ。 卵そのまんまだね。 きまりわるがらなくて いい、なまじ目鼻があるばかりに、苦労している女はいくらもいる。 心で勝 負だ。 縫ってもらいたいものがある、針、通せるか。 通せます。 しゃべ ったね。 器用だね、どこかで見てんだ。 いいね、女ってのは、主(おも) に、お前さんに出てもらいたい。 小僧は三度に一度くらいでいい。 蒲団を 敷いてくれ。 私は、この歳だ、何かしようてんじゃない。 女はいいね、華 やかになる。 さみしいね、顔、描いてやろうか。 嘘だよ、そのまんまでい い。 消えた。

昨日のは冗談だよ、早く出て来ねえかなあ。 ゾォッーとさせてもいい、慣 れてきた。 障子の陰に、大きな狸。 みんな、お前が化けていたのか。 狸 でもいい、用事はいくらでもある。 悲しそうな顔をしてるな。 すみません、 こんな化物使いの荒い家はない、辛抱しかねます、お暇を頂きたい。

小人閑居日記 2018年7月 INDEX2018/07/31 08:11

7856 落語研究会600回、桂やまとの「武助馬」<小人閑居日記 2018.7.1.>
7857 春風亭一之輔の「かぼちゃ屋」<小人閑居日記 2018.7.2.>
7858 古今亭志ん輔の「居残り佐平次」前半<小人閑居日記 2018.7.3.>
7859 古今亭志ん輔の「居残り佐平次」後半<小人閑居日記 2018.7.4.>
7860 柳家三三の「夏どろ」<小人閑居日記 2018.7.5.>
7861 柳亭市馬の「妾馬」前半<小人閑居日記 2018.7.6.>
7862 柳亭市馬の「妾馬」後半<小人閑居日記 2018.7.7.>
7863 戦没した船と海員、商船から漁船まで<小人閑居日記 2018.7.8.>
7864 「宇崎竜童~船乗りだった父の思い」<小人閑居日記 2018.7.9.>
7865 「南洋」、グアム島、サイパン島<小人閑居日記 2018.7.10.>
7866 敗戦への道 1944(昭和19)年「サイパン失陥」<小人閑居日記 2018.7.11.>
7867 サイパン以後の最後の1年半に大半が戦死<小人閑居日記 2018.7.12.>
7868 入谷朝顔市と「団十郎」<小人閑居日記 2018.7.13.>
7869 『季題ばなし』「朝顔」<小人閑居日記 2018.7.14.>
7870 「海開」と「月見草」の句会<小人閑居日記 2018.7.15.>
7871 『季題ばなし』「海水浴」<小人閑居日記 2018.7.16.>
7872 庭の雨蛙と「虚子の「存問」の句」<小人閑居日記 2018.7.17>
7873 「物語作家酋長(ル・アリイ・ツシタラ)」<小人閑居日記 2018.7.18.>
7874 筋のある小説<小人閑居日記 2018.7.19.>
7875 浅利慶太さん、GHQの方針からの出発<小人閑居日記 2018.7.20.>
7876 辰巳芳子さんと「大豆100粒運動」<小人閑居日記 2018.7.21.>
7877 小谷直道君の「父たちの戦場」<小人閑居日記 2018.7.22.>
7878 「“餓島”の参謀 一人、無言の遺骨収集」の反響<小人閑居日記 2018.7.23.>
7879 『看る力』(阿川佐和子・大塚宣夫著)余談<小人閑居日記 2018.7.24.>
7880 落語研究会・第600回 満50年<等々力短信 第1109号 2018.7.25.>
7881 桃月庵こはくの「臆病源兵衛」<小人閑居日記 2018.7.25.>
7882 三遊亭兼好の「あくび指南」前半<小人閑居日記 2018.7.26.>
7883 三遊亭兼好の「あくび指南」後半<小人閑居日記 2018.7.27.>
7884 入船亭扇辰の「夢の酒」前半<小人閑居日記 2018.7.28.>
7885 入船亭扇辰の「夢の酒」後半<小人閑居日記 2018.7.29.>
7886 古今亭志ん陽の「化物使い」前半<小人閑居日記 2018.7.30.>
7887 古今亭志ん陽の「化物使い」後半<小人閑居日記 2018.7.31.>