大相撲の給与制度、番付と年功制の二階建て2019/02/15 07:06

 初場所が玉鷲の優勝で終わった先月末、仲間内の情報交流会に、『大相撲の経 済学』という著書のある中島隆信慶應義塾大学商学部教授をお招きして、「大相 撲の経済学―そこに見える日本社会―」という話をして頂いた。 つぎの講師 を誰にお願いしようかと相談している時、女性の幹事が中島隆信さんという『大 相撲の経済学』、『オバサンの経済学』、『お寺の経済学』、『刑務所の経済学』を 書いた先生がいて、面白い話をしてくれる、誰か伝手はないか、というではな いか。 実は中島隆信さん、私の小尾恵一郎ゼミの後輩だったから、お願いを すると、ご快諾頂いたのであった。 当日、講師紹介をして、その話をし、大 相撲は国技というけれど、明治期に常設の相撲場が出来た時、尚武館という案 もあったが、国技館と名付けたから国技になった。 12月に林家たけ平が「小 田原相撲」のマクラでやった、大相撲は国技というけれど、モンゴルの方が強 い、それでも国技、日本とモンゴル両国(りょうこく)、両国(りょうごく)で やる、というのをやったら、みんな笑ってくれて、中島隆信さんにつないだの だった。

 中島隆信さんは、世の中の動きを合理的に説明するのが経済学であるが、大 相撲の世界も伝統を守るために合理的に行動している、と始めた。 まず、競 争を制限する仕組みがある。 総当り無し、移籍・再入門禁止、年功制、あい まいなルール。 たとえば、『年功制』。 賃金は、番付に応じた月給と力士報 奨金(持ち給金)という二階建てになっている。 月給は、横綱300万円、大 関250万円、関脇・小結180万円、平幕140万円、十両110万円、幕下以下0 円。 幕下以下は、住み込みの賄い係・付け人、部屋には一人年180万円の養 成費が来る。 十両より上か下かで天地ほどの差がある。 階級があまり細か く分かれていない。 十両と平幕の中では同じ給与で、番付の上下の変動は給 与に影響しない。 関取になってしまうと、それ以上地位が上がっても、給与 はそれほど増えない。 

〇力士報奨金(持ち給金)、最大の特徴は「成績が良ければ増えるが、悪くて も減らない」という点である。 報奨金(持ち給金)は、勝ち越しの数一つに つき50銭(0・5円)、金星(平幕力士が横綱に勝つ)に10円、幕内優勝する と30円、全勝の場合50円、というように加算され、負け越しても、時間が経 過しても減額されず、十両と平幕力士に限って、これを4000倍した額が年6 回の本場所ごとに、引退するまで支給される。 だが、十両以上の地位を確保 しなければ、積み立てた額を受け取ることは出来ない。

 具体的に、現役の第1位はダントツの白鵬で、持ち給金が1990.5円、これ を4000倍して796.2万円×6で、報奨金は4777万円。 第2位が鶴竜、344.0 円、826万円。 第3位は稀勢の里、309.5円、743万円。 第4位は琴奨菊、 209.5円、503万円。 第5位は豪栄道、205.0円、492万円。 第6位は安美 錦、202円、485万円。 第7位は嘉風、185円、444万円。 以下、第8位・ 栃煌山、第9位・高安、第10位・栃ノ心と続く。(なお、数字は私のメモなの で不正確なところがある。)

 力士報奨金(持ち給金)を歴代でみると、第1位はやはり白鵬で、大鵬、千 代の富士と続く。

 このように、角界ではただ単に高い地位にいるだけでは高収入は得られない。  しかし、逆にいうなら、現在の地位は低くても、過去に実績があり、十両以上 の番付を維持できる実力があれば、若い横綱と大差のない給与がもらえる世界 ということもできるのだ。 報奨金制度は、番付の変動によるリスクを軽減し、 力士たちに安定した収入を保証するとともに、長く現役を続けることが有利に なるしくみなのである。