十八番・二本締め〔昔、書いた福沢46〕2019/03/27 07:10

 十八番・二本締め<等々力短信 第553号 1990.(平成2年).12.25.>

 寄席に行けば「睨み返し」や「言訳座頭」、「芝浜」なんかをやっている、そ
んな季節がやって来た。 たまたまクリスマス・イブに落語会があったりする
と、家族の評判はすこぶる悪い。 そういえば先日「クリスマス・プレゼント」
を送った後で、自分でも可笑しくなった。 例の同級生の僧侶兼税理士や、山
形県鶴岡は菩提寺のご住職にも、送ったからだ。 「クリスマス・プレゼント」
に、和尚さん達は首をかしげたに違いない。

 この時期、円生のやっていた「まくら」に、こんなのがあった。
  四季を詠みました歌に、
  春椿 夏は榎で 秋楸(ひさぎ) 冬は梓で 暮れは柊(ひいらぎ)
  この歌をもじりまして、式亭三馬という人が、
   春浮気 夏は元気で 秋ふさぎ 冬は陰気で 暮れはまごつき
  という、まことにうまいことをいったものでございますが……
落語の中に、ちりばめられ、伝承されてきた、歌や川柳、地口や語呂合わせ、
諺や格言の素晴しさには、いつも感心する。 メモしておきたいようなのが、
いっぱいある。
 「味噌こしの底にたまりし大晦日 越すに越されず越されずに越す」

 桑原三郎先生が慶應幼稚舎の雑誌、『仔馬』通巻249号を送って下さった。 
先生は短信を読んで、いつも「よくご勉強」と書いて下さるので、毎度穴があ
ったら入りたい心境になる。 この『仔馬』に桑原先生の書かれた「福沢先生
の言葉 解説27 諺」のようなものこそ、「勉強」の成果なのだ。 福沢がその
著作のなかに引用した、何百という諺の使用例を調べ上げ、その中からちょう
ど百個を選んでおられる。 それぞれの諺が使われている著作の題名、全集の
巻数と頁もついているのが、ありがたい。

 「馬鹿は不平多し」「空樽はよく鳴る」「自慢高慢馬鹿の中(うち)」なんてい
うのは、まことに頭が痛い。 「不平多し」は福沢作、「空樽」は翻訳だそうだ。 
福沢作の諺で、桑原先生が特筆しておられるのが「自由は不自由の中にあり」
である。 明治8(1875)年の『文明論之概略』や『覚書』に、使用例がある
のだそうだ。 この思想は、早くも明治3(1870)年の『中津留別の書』中の
「一口に自由といへば我侭(わがまま)のように聞(きこゆ)れども、決して
然らず、自由とは他人の妨(さまたげ)を為さずして我(わが)心のままに事
を行ふの義なり」に、見られるという。

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