春風亭小朝の「中村仲蔵」2022/11/26 07:05

 翁家和助と小花の「太神楽」、歌舞伎の客には珍しいのか、拍手を浴びた。

 派手な粗い格子縞の衣装に替えて、小朝の登場。 大原麗子、ハスキーな声の女優がいた。 森進一と噂になって、週刊誌に追われている頃、ラジオの番組で一緒になり、つっこもうと思っていたが、耳元でお手柔らかにと囁かれて、好きなお花は? としか、聞けなかった。 映画に出て、泣くシーンがあった。 玉葱をジューサーでジュースにして用意しておいた。 翌日、目の下に塗ったが、一日経つと気が抜けていて駄目だった。 TBSのメークの人が、皆さんハッカ棒をお使いですと教えてくれた。 目の上下に塗ったら、目が開かなくなった。 大河ドラマに3本出た。 『軍師官兵衛』、岡田准一の黒田官兵衛では、明智光秀をやった。 出番待ちの岡田准一や柴田恭平は、浴衣で歩いていてもいい男だが、竹中直人が歩いていると温泉客になる。 東映と松竹の撮影所、歩いて5分なのに、ぜんぜん違う。 片方は、煙草盆にガムや包み紙が入ったまま。 松竹の『鬼平犯科帳』のスタッフは、撮影の30分前に周りの草木にも霧を吹く。 娘が、親父が死んだという知らせで駆けつける定番のシーン。 三度に分けて泣く、と教える。 最後は、顔をくっつける。 死んでる役者は、どこのおっさんだか、わからない。 顔をくっつけるのは、可笑しくなって、笑っていてもわからないから。

 初めて舞台で、血を見せた役者が、中村仲蔵。 役者は、稲荷町、中通り、相中、下立役、名題下と出世し、ついに名題になる。 中通りの仲蔵、世帯を持っていたので、家で楊子削りの内職をしていた。 ある時、ご家老役の団十郎に、「申し上げます。」と言って、あとを忘れた。 団十郎の所へつかつかと寄り、耳元で「親方、台詞を忘れました」と言うと、「心得た。」……、「これへと申せ」。 謝りに行くと、「役者は機転が利かなくちゃあいけない。お前だけが、裃を水のししているそうだな、目をかけてきた甲斐があった。内職は辞めろ、いい役者になれ。ウチへ来い、親方には話してやる」と言われた。 団十郎の所へ移って、その倅の高麗蔵と二人で上達し、名題にまで昇格した。  名題に昇進した中村仲蔵、『忠臣蔵』五段目の斧定九郎たった一役を割り当てられた。 名題としては不足な役だ。 五段目は昼時で弁当幕といわれ、客は熱心に見ない。 男にはプライドがあると、くさる仲蔵に女房は、「訳があるはず、お前さんは中村仲蔵だよ、お前さんじゃなきゃできない定九郎を工夫しろという親方のナゾだよ」と言う。

 森繁久彌のところに泥棒が入った。 久彌が腰を抜かしていると、奥さんが泥棒に紅茶とお菓子を出した。 これ少ないけどと、少し包むと、おとなしく帰って行った。

 斧定九郎は夜具縞のどてらにたっつけをはき山岡頭巾という山賊そのままの恰好で、五万三千石の家老斧九太夫の倅としては、おかしい。 気を取り直して、盗賊でも重役の倅というナリから工夫してみようと、柳島の妙見さまに日参して、あれこれ考える。

 ちょうど満願の日、雨に降られて、本所割下水の蕎麦屋に入った。 「蕎麦屋、許せよ」と入って来たのが、上背のある浪人者、黒羽二重の紋付の裏を取ったのに五分月代(さかやき)、茶献上の帯、艶消し大小を落とし差しに尻はしょり、破れた黒蛇の目傘を半開きのままポーンと放り出す、たっぷり濡れた袂(たもと)をしぼっている。 「これだッ」と思った仲蔵、じっと見ていたら、お前さしずめ役者だな、俺は旗本三村新次郎だ、と言い、サッと帰って行った。

帯は白献上、刀は朱鞘に替えて、カツラの五分月代は熊の皮にする。 皆に黙っているよう裏方に祝儀を切って、真っ白に塗って、青黛(せいたい)をアゴに、福草履を腰に、手桶の水をかぶって、デデンデンデンのチョボで、出た。 初日の客は、弁当幕というのでのんびりしていると、顔を白塗りにした、真っ黒いのが飛び出した。 与市兵衛を殺して、金を奪い、見得をきって、刀を鞘におさめる。 水が飛び、両袂をしぼる。 金勘定をして「五十両ーッ」、猪が来る、テンテンテレツクテン、鉄砲の音。 定九郎の仲蔵は、口に含んだ玉子の殻を割り、真っ赤な血を吐いて、倒れる。 勘平登場、財布の紐を引っ張って、死骸が起き上がったのを、小刀で紐を切る。 客席は吐く息と、唸り声がするばかり、ショッキングで、シーーンとなる。 「しくじったか」。

いい、定九郎でしたね。 後、見る気がしなかった。 中村仲蔵、無類だね。

 やり損なったと思って、家に帰り、上方へ逃げよう、と言っている所へ、親方がお呼びだと使いが来る。 親方の所へ行って謝ると、とんでもねえ、お前が考えたのか、いい定九郎だったぜ、肝をつぶした、あれが後々の型になるだろう。 じゃあ、あっしにやらせてもらえるんで、ホッとしました。 今日はまだ初日だ、楽にならねえ。

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