写生旅行に内助の功2007/05/10 07:09

島根県智頭(ちず)町智頭宿石谷家の絵

 千原昭彦さんの『絵画で旅する 日本の町並み』東日本篇の、山形県「米沢」 にこんなエピソードがある。 あまり町が大き過ぎると、かえって古い町並み や建物を探すのに苦労するという。 米沢もそうで、奥さんと少し歩いてみた ものの、見つからない。 ついにたまりかねて、タクシーに乗った。 だが気 のよさそうな年配の運転手さんも、古い武家屋敷はあまり残っていないという。  いささか不安になっていると、偶然目の前に堂々とした明治の洋風建築が見え てきた。 千原さんは「あっ、あれが良い」と叫び、即座に奥さんも賛同して、 その「米沢市旧米沢高等工業学校」の絵は描かれた。

 実は昨日になって、島根県智頭(ちず)町で、奥さんが「凄い家ね。描くな らここね」といったという大庄屋のお屋敷が、私の同級生石谷君の家だったと いうことが、ご本人に連絡して確認できた。 世の中、面白い縁があるもので ある。

 このように千原さんの取材、写生旅行には、随所に千原さんを助ける奥さん の喜美江さんの姿がある。 宮城県の登米(とよま)町という所に行くのに は、JRの古川駅からローカル線をいくつも乗り継いだ果てに、ようやく気仙 沼線の柳津という駅に着き、さらにタクシーで北上川の堤防の道を行かなけれ ばならない。 そんな苦労をして辿りついた城下町登米で、千原さんは初日に 懐かしさに浸りながら小学校、二日目には武家屋敷街と警察署を描いたという。  あまりの遠さに、もう二度と来られないかと思い、とにかく必死だったと、千 原さんは書いている。 私は、奥さんが学生時代に四年で日本一周旅行ができ るというキャッチフレーズのクラブ、文化地理研究会でご一緒だったことを思 い、仲間の中ではその経験が一番役に立っているのではないか、と考えた。