「俳句のすすめ」小説<等々力短信 第975号 2007.5.25.>2007/05/25 06:52

 2004(平成16)年秋の小江戸川越吟行から「枇杷の会」に参加させてもら っている。 当時は教諭だった本井英先生にご指導いただく慶應志木高同窓会 「志木会」の俳句の会で、三月に一度の句会(吟行)がある。 そのメンバー に24期というから14年下の、長谷川知水さんがいる。 川越には着物にソフ ト帽、布袋を提げて現れた。 俳句の方で「達者」とか「手練れ」というのだ ろうか、舌を巻くような巧い句をつくる。 そのうちに、『オール讀物』新人賞 を受けた作家だということがわかってきた。

 その知水さん、三田完(みた・かん)さんが先月上梓した『俳風三麗花』(文 藝春秋)を読んだ。 これがまた、めっぽう「達者」で、若い女性の恋や心理 を面白く読み進む内に、俳句や句会の魅力的な世界にとりこまれてしまうこと になる。 時代は、昭和7(1932)年7月から昭和9年3月まで。 ロサンゼ ルス・オリムピック、35区の大東京市誕生、六代目尾上菊五郎と中村吉右衛門 の菊吉人気、5・15事件とチャップリンの来日、日本橋白木屋の火事、中原淳 一画伯(21)の『少女之友』表紙、国際連盟脱退、古川ロッパ一座「笑の王国」 旗揚げ、サイレンが二度鳴った皇太子誕生、「東京音頭」大流行、東海林太郎「赤 城の子守唄」、満州帝国誕生などが見事に描き込まれている。

日暮里渡辺町の文理科大学教授(数学)秋野暮秋先生の暮秋庵句会に、先生 の同僚だった父を亡くしたばかりの娘・阿藤ちゑ、女子医専の学生・池内壽子 (ひさこ)、浅草の芸者・松太郎という妙齢の女性三人が加わる。 他のメンバ ーは還暦を迎えた最年長の筆職人に、古書店主、写真館主、三井合名社員など、 先生と同じ五十歳前後の男性陣である。 昭和7年7月の席題は「端居(はし い)」「守宮(やもり)」、8月深川佐賀町から出た屋形舟の句会は嘱目(しょく もく・目についたものを句に詠む)、9月「鬼灯(ほおずき)」「踊り」、10月「秋 の蚊」「渡り鳥」という季題で俳句を詠み、清記、選句、披講と句会が展開する。  頭に浮んだ言葉をつぎからつぎへと句帖に記していく壽子の作句の過程を、6 ページにわたってくわしく書いている箇所もある。 その日一番の句「天」も 選ぶ句会で、点が入ったり入らなかったり、一喜一憂の臨場感もよく伝わる。

 12日の「枇杷の会」横浜元町山手吟行で、著書に三田完さんのサインをもら った。 当日の作「港見下ろす銘々の手に氷菓」を書いてくれた。 芥川賞受 賞前の川上弘美さん、長嶋有さんと句会でご一緒したことがある。 三田完さ んは直木賞か。

「枇杷の会」横浜元町・山手吟行2007/05/25 06:53

 5月12日は第16回「枇杷の会」、横浜元町・山手吟行だった。 からりと 晴れて気持のよい午後、JR石川町駅に集合して、元町の本通りから、厳島神 社、ジェラールの水屋敷、元町公園、元町プール、弓道場、外人墓地、港の見 える丘公園のローズガーデンを巡り、「枇杷の会」史上最高の句会場という話も 出た大佛次郎記念館の豪華な会議室で句会をした。

 私が句帖に記したのは以下で、丸印の五句を出す。

 ○薫風に神社の御幣吹きなびく

はつなつのウチキのパンの香りかな

  元町に女生徒の声薄暑かな

 ○重ね穿く薄きスカート若葉風

 ○ペンキ屋の発祥の地に椎咲く香

 ○緑陰に剽と射た矢の走りをり

 ○緑陰でスケッチの人まどろみぬ

  デキシーの外に洩れ来る五月かな

 結果は、「ペンキ屋」を英主宰、知水さん、啓司さん、「剽と射た矢」を「緑 陰に剽と射し矢の走りけり」と直して英先生、翠積さん、「重ね穿く」を英主宰 と洋さんに採ってもらって、合計7点、まずまずの成績だった。