藤原正彦さんの「福田平八郎」論2007/05/24 07:09

 いささか旧聞だが、担当が野村正育アナから黒沢裕保アナに代った最初の「新 日曜美術館」(4月8日放送)で、『国家の品格』の藤原正彦さんが福田平八郎 について語っていた。 高校生の頃、油絵を描いていた父の道具で、中延の家 の瓦屋根の絵を描いた。 瓦屋根の一部だけを描いたのは、平八郎の有名な「雨」 (1953年)を真似したのである。 この絵をたまたま見た老舗ガラス工場の社 長さんが、ずっと後まで憶えていて、驚いたことがあった。

藤原正彦さんは、福田平八郎の作品について、一部を描いて全体を想像させ る、と言った。 その点で絵は、俳句に似ている。 一方音楽は、歌い上げる から和歌だというのも、高校生の時、藤原さんが発見した「藤原の定理」だ、 と。 数学者の岡潔さんは、日本人が数学に強いのは、俳句のせいだと言った という。 イマジネーション(想像力)がクリエーティビティー(創造力)へ。  平八郎の「竹」(1942年)を見る。 日本人やイギリス人は、具体的なものに 根をおいたまま、抽象する数学が好きだ。 徹底的な観察をし、色の描き分け や、節目のカーブで、竹の傾き加減や遠近感を出す。 デザイン画のようなシ ンプルな表現で、竹林が広がっているのが見える。

 藤原正彦さんは俳句を、小さい時からやっていたという。 気象学者だった 父・新田次郎さんが、露などの自然を観察して句をつくる。 一分間に二句つ くるのを競ったりしたという。 アメリカの大学で教えていた時、父親から一 週間に一度ハガキが来る。 ハガキの隅の「紅梅の色にじませて春の雪  次 郎」などという句を読むと、たちまち日本的な情緒を取り戻すことができて、 感激したものだ。 涙がない論理の国アメリカに一人暮しをしていて、日本人 は情緒的な気持で生きている、涙が土壌ににじんでいると、思ったそうだ。