三遊亭兼好の「犬の目」2023/06/30 06:56

 兼好は、黒い着物に、白の羽織。 噺の種類の一つに、逃げ噺というのがある。 お客様が集中して聴くのには限界があり、短い噺を入れる。 誰が聞いてもわかる、心に残らない噺。 それを、これからやる。

 緊張感のないお医者さんに見立て間違いというのがあるけれど、落語研究会に「犬の目」というのも間違い。 噺家は緊張感がなくて、反省しない、金坊が途中で亀吉になったりする。 こちらは、命にかかわらない。 医者とは真剣の度合いが違う。 途中で、噺が変わる先輩がいる、変えてもいい。 医者は手術中、こりゃ駄目だ、患者を変えて、という訳にはいかない。

 葛根湯医者というのが好きだ。 頭が痛いんですが? それは頭痛だ、葛根湯を飲みなさい。 お腹がシクシクするんですが? 腹痛だな、葛根湯を。 足が折れました、反対に曲がっているんですが? 足痛だ、葛根湯を飲みなさい、お大事に。 あなたは? 肩貸して来た、付き添い、退屈で。 葛根湯を飲みなさい。

 手遅れ医者というのもいる。 なんでも、これは手遅れだ、できるだけのことはしてあげなさい、と言う。 手遅れだな。 先生、今屋根から落ちたばかりですが? 落ちる前に来れば、よかった。

 八っつあんかい。 隠居さん、目を患っていて、外へ出られなかった。 医者には、そのまま放って置けばいいといわれた。 ヘボン先生を、知っているかい、ヘボン先生の一番弟子がいる、その方のお向いに住んでいる荒井左門先生の所へ行きなさい、四つ角曲がって二軒目だ。

 今日はひどい目になりました。 こすったでしょ、西洋のトマトのようだ。 先生は、カルテに「カゴメ」と書く。 ケメ塚君、くぎ抜きを、目をくりぬき、洗って戻すんで。 エッ、大丈夫ですか? 大丈夫、医者になる前は、浅利むいていた。 息を吸って、吐いて、止めて。 アララ、よくここまで、放って置きましたね、真っ黒だ、見てみて。 見えない。

 ケメ塚、どんぶりにお湯を。 重曹を入れると、汚れが浮いてくる。 よくかき回す。 目が回ります、熱くなってきた。 入れますよ、ポン!ポン! ケメ塚、入らないぞ、右と左を間違えたか。 痛い、痛い! お湯が熱くて、ふくれたんだ、ちょっと干しといて、縁側に。 じかに、お日様に当てないように。 カルテに、「目玉焼き」と書く。 目がないと、寂しいもんですね。 カルテに、「寂しいのに目抜き通り」と書く。

 目玉、持って来て。 アラッ! アラッって、何ですか? 犬がパクッていったの。 駄目じゃ、犬は。 食われたら、どうするんです。 犬に食べられた、よく来る犬なんです、タダ白って言う。 前の患者の目が美味しかったんでしょう。 カルテに、「グル目」。 代わりに、あの子の目を入れます。 犬の目で、大丈夫なんですか? 大丈夫、来月には新目が出ます。

 タダ白、ハアハア言わない。 トックン! いい目だ。(と、着物で拭く) ポン、ポン、入りました、目が入りました。 何となく、右と左が違うようで、何も見えない。 ケメ塚、楊枝を。 楊枝でひっくり返す。 大丈夫ですか? 大丈夫、医者になる前は、たこ焼き屋やっていた。 よく見えます。 二、三日したら、また、顔を出して下さい。

 今日は御礼に参りました、遠くまでよく見え、夜も見えるし、鼻が利く。 友達と喧嘩しても、噛みついて勝つ。 一つだけ困ることがある。 小便をすると、片足が上がるんで。

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