吉永小百合『男はつらいよ』寅さんのマドンナ二本2023/09/21 06:56

 山田洋次監督と吉永小百合、1972(昭和47)年の『男はつらいよ 柴又慕情』のマドンナが最初だが、その前年、「寅さん」シリーズ8作目の『寅次郎恋歌』の脚本を旅館(神楽坂だろう)にこもって書いているとき、渥美清が陣中見舞いに現れた。 次回作の説明をして、「失恋した寅が冷たい雨に濡れて寂しく去っていく、というのがラストシーンかな」と言うと、渥美清が「ソコヘスッと傘が差しかけられるというのはどうです。寅が振り返ると美女が優しく微笑んで、どうぞ、と言う。これが次の回のマドンナ」。 監督が大笑いしながら、それは誰だろうと言ったら、「吉永小百合でしょう。小百合ちゃんは確か日本テレビの番組で局にいるはずだから、今行って頼みましょうか」と言う。 監督は驚いて、渥美さん、今ノッているなと思ったという。 脚本や配役について口を出すことは絶対しない彼が、そんな口をきいたのはあとにも先にもあのときだけだという。

 翌年の『男はつらいよ 柴又慕情』で、その夢は実現、衣装合わせで吉永小百合が初めて撮影所に現れる日、スタッフはちょっと興奮していたものだそうだ。 ついにわれわれの作品はあの吉永小百合をマドンナに迎えるんだ、という喜びでしょうか、と監督は「山田洋次 夢をつくる」第19回に書いている。 吉永小百合の役はOLの歌子、友人と旅行している際に寅さんと出会うストーリーで金沢を中心に北陸ロケをしたそうだ。

 旅行で知り合った歌子が、柴又の家に寅に会いに来る。 いっぺんで歌子に惚れた寅だったが、歌子は小説家の父(宮口精二)の反対を押し切って、若い陶芸作家と結婚。 寅の恋は、またもや破れるのであった。

 「だいたい小説なんて書くような人間てのはね、われわれと比べるといっぷう変わった人が多いんだよなあ」

 (おいちゃんとおばちゃん、さくらに)
 「たった一人の甥っ子の陰口をきいてケタケタ笑っているような、そんな悪魔の住居(すみか)みてえなところへ二度と帰って来られるかい」
 (その数秒後、現れた歌子に)
 「みんな田舎者ばっかりですけど、心の優しい人ばっかりいるところですからね」

 吉永小百合は、1974(昭和49)年の第13作『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』で二度目のマドンナになっている。 失恋して悲しく旅に出た寅は、津和野の町で、以前恋に落ちた歌子と再会する。 歌子は、陶芸家の夫に死なれて、町の図書館に勤め、寂しく姑と暮らしているのだった。 柴又に帰った寅は、そこで意を決して東京に出て来た歌子と会い、小説家の父と歌子の仲を取り持ってやる。 歌子は他人のためになる生き方を、と障害を持つ子供たちの施設で働くことを決意し、寅は再び旅に出るのだった。

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