さん喬の「ちきり伊勢屋」(下)の(上)2007/02/04 07:02

 いよいよ、さん喬の「ちきり伊勢屋」のクライマックス、(下)である。 ち きり伊勢屋の伝次郎が占い師の白井左近に死ぬといわれた2月15日が近づい て、一緒に暮している幇間の善平、その仲間の一八や何かがみんな集まって来 て、毎晩大騒ぎをする。 当日、伝次郎は白無垢の羽二重に、おでこには三角 の白布をつけ、窓をつけた早桶に入る。 善さん、もう一人は入れるよ。 い いよ。 表には忌中の札を出す。 おさらばだ。 お元気でご成仏なさいます ように、なんて変なことを言って、皆ワッと泣く。 前の加賀屋新次郎の番頭、 藤助がどなたが亡くなったのでしょうか、と尋ねて来る。 これから、死にま す、というのでびっくり。 早桶に、酒、煙草、握り飯、鮭とおカカがいい(梅 干が嫌いなんで)というのも入れ、みんなでかついで、目黒の報徳寺へ。 読 経の間に、伝次郎は寝てしまう。

 寒いので、気がつくと、ザクリザクリ、墓掘りが穴を埋める音。 死ななか ったんだ、私は生きている、と早桶のふたを跳ね上げる。 墓掘りは腰を抜か し、寺の前の花屋に行くと、おかみも、主も、目を回す。 白無垢を汚い着物 に着がえて、二十文の銭をもらって、立ち去った。 寺のお堂やなんかに寝て、 二十文は一日、二日で使い果す。 四、五日目、麻布一の橋のごみためで、芋 の切れ端を拾っているところを、二人の乞食に、どこの者だ、ここは俺たちの 縄張りだ、と蹴飛ばされる。 前に施しをした乞食だったろうに…。