権太楼の「家見舞」その後半2008/07/29 07:15

 古道具屋には雨水を受けている瓶があった。 ゆずってくれるかときくと、 いいという。 たったの5銭。 荒縄と天秤棒を借りて、運ぼうとすると、水 瓶はダメだよ、水瓶にならない瓶だ、と。 漏るの? 漏らないけれど、縁が 大きいでしょ、汲みやすいように。 漏るんだ? 漏っちゃあ、困るんだ。 一 丁ばかり先に、家の壊しがあってね、掘り出してきて、雨水受けるように置い てあるだけなんだ。 台所のそばに置く、そりゃあダメだ。 漏るんだ? わ かんないかなあ、日に一ぺん行くだろ、紙持って、ギーバタンて。 でも5銭 だし、おやじ、掘り出しもんだよね。 この川で洗っちゃえば、いい。 二人 で担いで行く。 後棒の男、お前は先棒だからいいが、水が乾いて、日が当た ると、えらい臭いだ。

 兄貴分の台所に据え、こまめに水も汲み込んでおく。 兄ィは酒の支度をし たというが、手を嗅ぐと臭いので、湯に行きたいと、手拭とシャボンと湯銭を 借りる。 二人が手持ちを叩いて買ってきたんだと、5円くれる。 湯から帰 ると、膳の支度が出来ている。 冷奴、好きなんですよ、うめえな、何を考え てんだ。 冷奴の水は? 瓶の水だ。 お酒でガブガブして、願い事で冷奴は 断(た)ったことにする。 ほうれんそうのお浸し、かくやのこうこも、断っ た。 あったかいおまんまに、薄くてぱりぱりの焼海苔なら大丈夫だと、食べ 始めると、もう一人がまた、考えている。 おまんまから湯気が上っている。  たったいま炊いた、瓶の水で。 おまんまも、断ったことになる。

 よく喋り、頭の回転にやや不安のある一人と、冷静で、5銭持っていた、も う一人、その描き分けが効果的で、噺を面白くする。 権太楼がトリであえて 「家見舞」をかけた試みは、成功した。 落ちは、兄ィが「水瓶に滓(おり) が浮いていたって、鮒の五六匹も飼っておけば大丈夫」というのを、「それには 及ばない、今までコイが入っていた」