昇太の「茶の湯」2008/07/04 06:55

 「てなわけで」と、昇太は出て来た。 眼鏡を変えたようで、眼鏡が目立た ない。 まだ、(食品)偽装やってる人がいる。 上に氷を入れるツー・ドアの 冷蔵庫をかすかに知っている世代で、(母親は食品の)臭いを嗅いで使っていた。  賞味期限なんて止めたらどうだろう。 人間本来持っている力を頼りにして…。  老舗というのは、長いこと悪いことをやってきた可能性のある店、ということ になる。 その点、落語家は偽装しづらい職業で、誰が考えたかわからないけ れど、古いものを温め直してまた出すという、船場吉兆と同じことをやってい る。 定年がないから、いつまでも出来る、死の前日まで出来る。 60歳や65歳で定年になり、仕事一途にやってきて、趣味がなくて困る人が多い。 昇 太自身は、城を見に行く趣味があるという。 天守閣のあるような城でなく、 中世城郭が好き。 天守閣のある城は、最後の一ページに過ぎない。 何もな い、土塁や窪地だけのを、見に行く。 一緒に行く友達はいない。 いいのは 3万から4万あるから、全国どこに行ってもある。 ゴルフのように、教えた がる人がいないのもいい。 昇太も48歳になったそうだ。 ここで、趣味の なかったご隠居が、蔵前から根岸の里にひっこんで、小僧の貞吉を相手に、「茶 の湯」を始める話になる。

 騒がしい昇太式の「茶の湯」である。 炭をいっぱい入れたから、湯はグラ グラに煮えたぎり、釜をつつまんばかりの炎を見れば、野性の血が騒ぐ。 風 流だなあ。 かき回すものは、何というか、竹クラゲ、にごりえ。 下痢をし て、そのへんを走り回っていた貞吉が、お公家さんみたいな歩き方になる。 し ゃなり、しゃなり。 楽しく笑ったあとで、ふと、48歳の昇太、いつまでも、 この調子でいいのだろうか、そうもいくまいなと思ったら、やがて哀しいもの があるのだった。