一朝の「蛙茶番」2010/05/06 07:04

 前回の予告で「蛙茶番」は橘家圓太郎のはずだったが、「けが治療につき」と いうことで春風亭一朝の代演。 一朝は大河ドラマなどのタイトルに、江戸言 葉指導で名前が出る。 「あの、歌舞伎、お芝居てえのがございます」と、始 めた。 二ッ目の頃、アルバイトで十年くらい歌舞伎座の笛を吹いていたのだ そうで、三階で女形同士の喧嘩を見たことがある。 髪の毛を引っ張ったり、 引っ掻いたりする女の喧嘩そのまま、だれかがネエさんを呼んで来た。 七十 過ぎた三階の大ベテラン、カツラを取って羽二重の頭になっていたが、台詞の 調子で「お待ちったら、私の言うことが、聞けないのかえ」  義理の父が片岡市蔵、片市という役者で、私が荷物を持ち、おナカの大きい かみさんと湯島の実家へ行く途中で会った。 「バカヤロ、亭主に荷物を持た せるな」と、娘を怒鳴った。 自分は手に鍋を提げていて、豆腐を買いに行か される途中だったから、説得力のない小言だった。

 「蛙茶番」、実は二番目に出た左龍が小太郎から真打になった2006年5月 31日にやっていて、6月3日の日記に物語は書いてある。 小間物屋の美ぃち ゃんの話をすると動き出すのは、一朝だと建具屋の半公だ。 一朝は、表情一 つ変えずに、「半ちゃん、日本一、大道具」という馬鹿可笑しい噺をやりきった。  その落差が、噺の面白さを増幅した。

小三治の「ま・く・ら」ま「大入袋」2010/05/07 06:46

 トリは小三治である。 主催者のTBSから大入袋が出たという。 初めて大 入袋をもらったのは52年前、鈴本演芸場だった。 百円入っていた。 だが、 何年経っても、百円。 あの当時の百円は高価なものだったろうが、ずーーっ と百円、今日も百円だった。 ただ珍しい物が入っていた。 百円札、板垣退 助の。 本当のことを言うと、あんまり嬉しくない。 私が30歳ぐらいだっ た40年前に製造中止になった。 将来値打ちが出るだろうと思って、封のか かった百枚の束を、東京にはなくて方々の銀行、熊本の肥後銀行や、金沢の北 國銀行なんかで手に入れ、現在でも四束持っている。 それで嬉しくない。 価 値が上がって一枚五千円から六千円になるかと思ったら、今百二十円くらい。  どちらかっていうと、恨みがましい。 あの時の四万円、かなりの負担だった。  まあ、そんなことはどうでもいい。 大入袋、そろそろ千円ぐらい入れたって いいのに、世間中百円なんだよ、頼みますよ、ハハハ。

小三治の「ま・く・ら」く「わからない話」2010/05/08 07:01

 私の持ち時間は40分から45分ある。 今日のネタは主催者のリクエストで、 たっぷりやっても15分しかかからない。 15分やって、帰っちゃおうかと思 ったんだけれど、そうはいかないのが俺の度胸のないところで…。

 わからない話をやる。 CD、MDの時代というのは、終ったみたいで、今は 何なんでしょうね、こんな小さいところに何万曲も入る。 私はまだCDで苦 労してる。 福岡のホールで落語会をやると、カセットテープにしてくれる。  世の中はカセットテープの時代じゃない。 私はCDレコーダー(CDR)を持 っていて、今まではカセットテープの音をCDにしてこれた。 CDを山のよ うに作ってきたのに、CDRはとっくに製造中止で、ダメだという。 生きてい るのが、やんなっちゃった。

 MDというのがあるけれど、使わなかった。 MDは圧縮するのがいや、圧 縮したのを元に戻す、干したワカメを水に漬けて戻すようで、いい音を求めて 来た者には、モヤモヤした、いやな音がする。 で、モヤモヤしない世の中に なってきた、というんだけれど、どう思います。 CDRはないが、プロ用の機 器でタスカムというのがあった。 買って使おうと思ったが、使えない。 パ ソコンを自由に使える人のための機器になっている。 歌のお稽古に行ってい る、ピアノの先生が、DATという、いい音のするのに入れてくれるんだが、こ のDATも絶滅に近い。 CDRでCDに入れんのが大変で、どう大変か、話が できないほど大変だ。

 デジカメを使って、もうずいぶん経つ。 SDカードとか、コンパクト・フ ラッシュに入れるんだが、最初はこれがメチャ高かった。 今、二千円ぐらい のが、二、三十万円した。 カードを買うために、稼いでいるようだと言った ら、パソコンがあればできると、雲助にだまされてパソコンを買った。 何も 使わず、ひたすら写真のためにパソコンをやったのだけれど、もう大変なんで、 こいつのためにかかっている時間といったら、一生パソコンの前に座っていな ければならないほどだ。 そのマッキントッシュに、新しいのが出て、もうア ンタの時代じゃないという。 買ったんですけれど、使い方がわからない。

 で、家に帰るのが、いやんなっちゃった。 家に近くなるとヒートアップし てきて、頭の中のニクロム線が真っ赤になって、ぐちゃぐちゃになる。 どう したらいいんでしょう。  違う話をします。

小三治の「ま・く・ら」ら「病気について」2010/05/09 08:43

 よく、痩せたんじゃない、どこか具合悪いんじゃない、と言われる。 痩せ たんです。 66kgあったのが55.8 kgまで痩せた。 他人にも心配かけたが、 自分でも心配した。 でも悪いところはありません。 なくはない、糖尿病と 言われて、白いおまんま、白いパン、油をやめて、食後3~40分歩く。 忠実 に昼、夕方、深夜、3~40分歩いた。 すると、痩せた。 コレステロールも、 中性脂肪も、値がよくなった。 大丈夫です。

 それはそれでいいとして、もう一年位経つのだけれど、歳を取ると、首の後 ろが痒くなる。 触ると粉っぽい、シラクモ(白癬)かなと思った。 昔はシ ラクモや、顔にハタケ(といっても、作物は取れない)ができたものだ。 原 因は真菌類で、水虫の親戚、キノコも真菌類で、早い話が、キノコは水虫食っ ているのと同じ。 近所の代々皮膚科という医者に診てもらうと、おッ、本当 だと言い、壺に入った代々の水薬をピシャピシャつけてくれた。 それが一週 間経っても、十日経っても、治らない。 別の一件で行っている女子医大の整 形外科の先生に皮膚科を紹介してもらうと、これシラクモじゃない、ただの湿 疹ですと薬をくれた。 その薬で、二日もしたら治っちゃった。 その医者が、 それよりあなたの顔が問題です、赤いんじゃありませんか、と言う。 血色が 良くなった、元気そうね、と言われるというと、それが問題で「シロウ性湿疹」 だという。 シロウ、シはシボウのシ、ロウはロウスイのロウ。 死亡、老衰 が頭に浮んだが、脂肪、漏水。 年を取ると、皮膚が潤いを蓄えておけなくな っちゃう、原因はカレーですというから、そういやあ昨夜三杯食べた。 じゃ なくて加齢。 子供の頃から白い顔だった、噺家になりたての頃は「白面の貴 公子」と言われていた。

小三治の「粗忽長屋」2010/05/10 07:05

 昔は、そそっかしい者ばかりが長屋に集まっていた、と小三治は「粗忽長屋」 に入った。 そそっかしいって、何だろう? ものを蹴飛ばす、ものを忘れる。  いま出てくる時に、「師匠、扇子が二本です」って、言われた。 二本差してい た。 二本差したまま出たことが、二回くらいあった。 慌てましたよ。 侍 じゃあるまいし。

 そそっかしいのに、二つある。 まめで、そそっかしいのと、無精で、そそ っかしいの。 まめで、そそっかしいのは、「行くから取ってくれ。ほら、屋根 があって、どぼんと飛び込んで…」。  無精で、そそっかしいのは、鉄瓶ぶら 下げて、湯へ行く。

 八五郎が、浅草で人だかりを見かける。 ユキダオレだという。 股ぐらを くぐって、べらぼう、どろぼうなんて言われながら、前へ出ると、誰かが内股 に貼っていた膏薬がおでこについた。 文句を言うから「返すよ」。 「これか ら始まるんですか」と、行き倒れがわからない。 「こいつは熊の野郎だ、同 じ長屋の隣り合わせ、兄弟同様にしてる。 今朝も寄ったら、ぼんやり考え込 んでいた。 ゆうべから倒れているって…、そうでしょ、そういう野郎なんで す。 そいつ、連れてきますよ」「あなた、もういいよ」「そうはいかねえよ」

長屋に戻った八、空き店(だな)を叩いている。 こないだも、あそこ叩い ていた、と熊。 「熊、俺だ。 どさくさの、金比羅様じゃない、水天宮様、 いや観音様に行ったんだ。 ユキダオレを見た」「うまくやったね」「おめえは、 ゆんべ、浅草で死んだんだ」「ゆんべは中をひやかしに行って、五ン合ばかり飲 んで、そのままけえってきた」「それが、仁王門のところで倒れて、死んだんだ。  向うだって当てにしているから、一緒に行こう」「仕方がねえ」

「当人が来たから、どいてくれ。 どーも、先ほどは。 熊、よく見ろ」「ツ ラが長いね」「一晩おつゆに当たったから」「これは、俺だ」

そして、例の下げになった時には、予定の終演時間をだいぶオーバーしてい た。