「パテ屋」の台所からの知恵2011/10/23 04:48

 スタッフやOGの話によると、理系出身の林のり子さんは、万事に合理的だ。  物をよく観察し、背景にあるものを探る。 素材・調味料・熱・時間が混沌と している鍋の中の出来事を、整理色分けして、要素の絡み方を明確につかむこ とが第一。 それを作る人・機械・道具それぞれの仕事の段取りにおきかえて いくわけだという。 調理する時も、物理の用語(コンソメ=「上澄み」「沈殿」、 摩擦係数、比重、溶解度と温度、毛細管現象)が飛び出す。 作業方法を説明す るたびに「へえ、料理は科学なんですネ」を連発したスタッフもいた。 野菜 ひとつでも、まるごとじゃぶじゃぶ洗うか、葉物だけにして洗うか、素材に合 ったやり方を考える。 量が多くなると余熱の働きも見逃せないし、素材の合 理的な処理方法・切り方も重要となる。 「煮くずすものだから繊維に直角に 薄切り!」

 「はかな切り」という用語が「パテ屋」にある。 玉葱、ハム、パンなどを、 均等の厚さではなく、薄く、そぎ切りにするらしい。 食感も、味も変わる。  「はかな切り」のパンを重ねたサンドイッチなどは、「空気の歯ごたえ」がある という。

 実験精神があって、思いもかけない発想が飛び出す。 例えば、アンチョビ ー(片口イワシの塩蔵品の油漬)は、へしこ(サバ・イワシ・イカを塩漬けした後 に糠漬けにした福井県の郷土料理)と同じだとか。

 発送用の荷物の詰め方は、重心を決め、点対称に重さや種類を配分し、持ち 上げた時に箱を取り落として、ビンを割ったりしないようにする。

 ゴミを出さない、というようなことは、初めからやっていた。 紙を多用す る。 いろいろな種類やデザイン、大きさの…、油を吸うもの、吸わないもの。  家庭排水をきれいにと気をつける。 玉葱の皮は、流しでなく、机の上で、チ ラシに剥く。 カリフラワーやブロッコリーの芯は、柔らかく煮て、賄いにす る。

 「稼がず、使わず、寝てくらしたい」というのが、店を始めた頃からの林の り子さんの夢だったという。 初期のOGで6年間いたというタレントの清水 ミチコさんは、『パテ屋の店先から』(アノニマ・スタジオ)という本の座談会で 「とにかく、「たのしく人生生きようよ」っていう人って、それまでみたことが なかったから、すごくそれもビックリだった」「よくこんなにつづいたよね」と 語っている。 この本、昨22日放送のBSプレミアム「週刊ブックレビュー」 の「ベストセラー・レビュー」、「“食”に関するエッセイ・ノンフィクション月 刊ベストテン」(リブロ・渋谷店調べ)で6位に入っていた。