河上肇の「饅頭」の歌2011/10/27 04:57

 25日の短信で、鈴木敏夫さんが高畑勲と宮崎駿両氏に教わった本の話から、 岩波ジュニア新書の茨木のり子著『詩のこころを読む』を読み、「河上肇の詩「味 噌」」に至ったことを書いた。 ジュニア新書のような児童向けの本は、あなど りがたいものがあるのだ。 すると、23日朝刊の岩波書店の広告に、今月の新 刊で宮崎駿さんの『本へのとびら』(岩波新書)が出たという。 副題は「大切 な本が一冊あればいい」―岩波少年文庫を語る―、お薦めの50冊だそうだ。

 世田谷区立中央図書館保存庫にあった『河上肇全集21』「詩歌集・詩話集・ 獄中の日記ほか」(岩波書店・1984年)を借りてきた。

 よい菓子を沢山貰ふ夢を見てふとめさむれば牢に居たりき(昭和十一年一月二十七日)

 うた日記(昭和18年)一月十三日の「思ひ出」に、「十五六の時、山口の高等 中学から郷里の岩国へ徒歩で帰省(まだ鉄道が開通していなかった)した途中」 「峠の茶屋」で「食べた」「いくつかの大福餅」「黒餡の透いて見える、皮の薄 い、搗きたての軟い大福餅」「それがとてもうまい」、その味が、妙に記憶に残 っていて、折にふれては、望郷に似た懐しさと寂しさとの交錯を、老いの身に よび起す、とある。

 やはらかきもちひにあまき餡かけし粟餅ぜんざい食ふよしもがな(河原町三 条下ル東側に、粟餅ぜんざいの看板のみ残り居るを見て、六月一日口占)

 「平和来たる ―八月十五日―」の中の一首。

 大きなる饅頭蒸してほほばりて茶をのむ時もやがて来るらむ

 「雑詠」より三首。

 饅頭が欲しいと聞いて作り来と出だせる見れば餡なかりけり(九月一日)  何 よりも今食べたしと思ふもの饅頭いが餅アンパンお萩(九月八日)

 死ぬる日と饅頭らくに買へる日と二ついづれか先きに来るらむ(九月八日)