喜多八「五人廻し」の後半 ― 2013/05/06 07:12
おい、おい、廊下を通行する奴! 小使い! え、どうも。 そこでは談判 が出来かねる、前へ進め、その方は何役か? 何、二階を廻しとる、一人で、 君が…、偉大な力だね。 年齢は? 四十二でございます。 馬鹿者ン、何が 面白いか、四十二にもなって、かかる巷に入り、いまだ一個の分別もつかんで、 こんにち男女同衾する夜具布団を運搬しておって。 貴様の両親も、貴様をか ようなものに致すべく、教育はせんのであるぞ。 みな、貴様の意志薄弱から して、かかる巷に足を踏み入れておるのであろう。 君に尋ねたいことがある のだよ。 人跡絶えて、ここに二個の枕がある。 一個は我輩が使用するとし て、もう片方は何人(なにびと)が使用するのか? 寝相が悪いから、掛け替 えの枕を出しておくのか? 即答をぶて。 えー、もう一個は、可愛いあの妓 (こ)さん…。 あの妓さんにも、この妓さんにも、宵からチラリとも見えん ではないかッ。 ここに受取がある、あのだよ、見えるね、一枚は飲食代金、 これはわかる、もう片方は娼妓揚げ代金という件については、ほとんど解釈に 苦しむ、これはたしかに有名無実といってもよかろう、すみやかに玉を返して もらいたい。 ほどなく、いらっしゃいますので。 今、何時(なんどき)か、 鶏鳴暁を告げんとしておる。 なめるなよ、昨夜「旦那、一晩の愉快を」と言 ったのは、貴様であろう! 声を荒げて、大人気なかったね。 ぼくの気持を わかってもらいたい。 妻は病で臥せっておるのだよ。 その妻が、吉原へ行 くようにと、ヘソクリをぼくのフトコロにねじ込んでくれたのだ。 妻の意が 無になるではないか。 妻のことを思うと、どうしても玉を返してもらいたい。
ちょいと、廊下をご通行中の、若い衆さん。 お呼びなのは、こちら様で。 モチリン、入りたまえ、清めたまえ、あとを閉めたまえ。 恐れ入ります。 そ うでげしょ、いよいよお引けとなって、側に姫なるものがはべっている方がよ いか、はたまた、拙のように、こうひとり淋しくしているのが愉快か、尊君に きいてみたい。 拙は品があって、尊君は相がある、貧相。 拙はご婦人にも 厭きましてね、その代り、尊君のお体、拝借しましょう。 こっちへ来て、肌 ァ脱いで。 手前、花魁のご名代はできません。 火箸が真っ赤に焼けている から、これを尊君の背中にジュッとあてがって。 冗談いっちゃいけない。
手の鳴る方へ、若い衆さん。 どうなってんだ、アマッ子は。 おばさんで もかまわねえ。 こう見えても、神田の生まれだ。 畳を上げて、何をなさっ ているんですか。 探し物だ、女がいなくなった。 次は天井裏だ。 お関取 だけに力がある、みんな壊されちゃうよ。 ワシら、廻しを取られたら、負け なんだ。
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