三三の「万両婿」後半2014/10/08 06:39

 可哀想なのは、小四郎さん。 大きな荷物を背負って、川崎まで来た、もう 一足で、京橋だ。 着いたのが四ツ半(午後11時)過ぎ、佐吉とお時はもう 寝ていた。 半年も顔を見ていない、首っ玉にかじりついてくるだろう。 ト ントン、開けてくれ、お時。 どなたですか。 どなた? 小四郎だよ。 お前 さん、起きてよ。 私が出る。 化けた、化けたーーッ。 裏の戸を蹴破って、 裏の大家の所へ。 出た、出た、コ、コ、コッ、小四郎のお化けが出た。 夫 婦で、寝ぼけたのか。 万事、私にまかせろ。

 大家が見に行くと、中に誰かいる。 幽霊が煙草を喫みながら、考え事をし ている。 ナンマイダブ、手前が死んだのを忘れて、帰って来る奴があるか。  私は生きている、死んだのは、神谷町の若狭屋仁兵衛、去年か一昨年、若いか みさんをもらって江戸中の大評判になった、あの旦那だ。 「ヤーーベェ」。

 皆様にお世話になって、お時と佐吉を一緒にしちゃったんだよ。 お時は、 私の女房です。 小四郎、一月交代というのは、どうか。 お時さんを、上下 に分けるわけには、いかないな。 小四郎、まずは江戸前で、譲り渡すという のは、どうだ。 いやです。

 小四郎は元気だった。 お時さん、どっちがいい。 小四郎は商売に忙しく てかまってくれなかった、佐吉さんは毎晩のように可愛がってくれて…。  話が決りました。 小四郎、どっかに行って死んじまいな。 小四郎は、南 町奉行所、大岡越前守に訴え出た。 その結末は来月の落語研究会で、と言い たいところだが、来月は出演の予定がない。

 落着(らくぢゃく)! 判決が出た。 小四郎、そなたの気持は、察して余 りある。 諦めが肝要だ、女房と店を佐吉に譲り渡せ。 若狭屋仁兵衛の妻よ し、来ておるか。 そちゃ、幾つになる。 21になります。 仁兵衛は気の毒 なことをしたが、およしは三万両の身代を、女手一つで守っている。 亡き夫 に厚意を尽した小四郎が今、難儀に遭っておる。 小四郎を新しき夫に迎える ことも、深き縁(えにし)であろうが、いかがじゃ。 先様さえ、異存がなけ れば…。 およしは、お時より器量が、ガン、ガン、ガーン、と、よかった。  小四郎に異存のあろうはずはない。 三万両の身代と若くて美しい妻を得た。  時は過ぎゆく…、大岡政談万両婿の一席。