春風亭一朝の「藪入り」後半2018/08/02 07:11

 風邪を引いたと思ったんだよ、いつものように一杯やって、うどんでも食っ て寝ちまえば治ると思ったら、熱が下がらねえ。 近所のヒゲのはえた先生に 掛かったら、ひまし油飲まして腹がピイピイ下った。 本所の先生は、銭を取 ってくれないから掛かりづらいんだが、お願いしたら、飛んで来てくれて、大 変だ肺炎だ、身体中にカラシ塗った油紙をベタベタ貼りつけてくれたら、ハア ハア、カッカして、熱が下がった。 お前の顔見たくなって、吉兵衛さんに頼 んだら、お前の手紙を持って来てくれた。 字も文句もうまくなったな、風邪 治っちゃったよ。 風邪引くたびに、手紙見てる。

 ゆんべから、おっかあが寝かせないんだ。 お前さんだろう。 おっかあ、 野郎、大きくなったろうな。 自分で見れば、いいじゃないか。 見られない んだよ、目の前が霞んで見えない。 だらしないね。 見るよ、見るよ、亀、 立派になりやがったな、俺より大きいじゃないか。 お前さんは座っているか らだよ。 ぐるっと、回れ。 これ、ご主人様から、つまらない物ですがって 預かってきました。 ご主人様には、忠義を尽くさねえといけねえ。 お父っ つあん、店へ見に行ったことがある、お前、信どんてのか、太ったのと用の取 りっこをしてた。 それを見ていて大八車にぶつかって、こっぴどく叱られて、 大笑いだった。 これ、お小遣いで買って来ました、召し上がって下さい。 お っかあ、神棚に上げな、下ろしたら、長屋に配ってやれ、家の子供のお供物だ って。

 湯へ行って来い、宝湯だ。 着替えて、お父っつあんの長半纏でいい、手拭 と湯銭、湯銭ぐらい出させろ。 気持がいいんだ。 俺の日和下駄で行け、ド ブ板に気を付けろ、その犬にかまうな、子を産んでからおかしくなって。 見 ろよ、尾っぽ振って、じゃれてる、亀を憶えてるんだ。 豆腐屋さん、入って 来るのちょっと待ってくれ、家の子が湯へ行くんだ。

 おっかあ、行っちゃったよ。 もう、帰って来るかね。 あの子、お前さん に似て来たね。 仁義を切りやがって、ご無沙汰とか、お元気でなにより、と か。 いい着物だね。 女将さんに、気に入られたんだ。 ちょいと、お前さ か、大変だよ。 がま口、開けて見た。 見るなよ。 お小遣いの足しにと思 ってね、五円札が三枚畳んで入ってた、十五円、大金だよ、初めての宿下(や どり)で、十五円だよ。 あいつは、俺のガキだよ。 十五円だよ、大金じゃ ないか。 大金だ……、あいつ、やりやがったな、帰って来た時の目付きが悪 かった。 湯から帰って来たら、土性っ骨を叩き直してやる。 まず話を聞か なくちゃあ。

 野郎、帰えって来やがった。 宝湯、きれいになったね、けっこうな湯でし たよ、お父っつあんも行って来たら。 何を! ネタは上がってんだ、がま口に 十五円、どこから盗んだ。 見たの!! いやんなっちゃう、だから貧乏はいけ ない、香具師はいやだ。 亀、何てことを言うんだい、私が見たんだよ、小遣 いを入れようと思ってね。 どうしたの、泣いてちゃあ、わからないじゃない か。 盗んだんじゃない、盗んだんじゃないよ、ペストが流行って、鼠を取れ ってんで、交番に持って行くと、木の札をくれる。 鼠の懸賞に当たったんだ。  ご主人様が預かってくれて、宿下にお父っつあん、おっ母さんを喜ばせてやれ って、渡してくれた。 そうか、よかった、よかった、鼠の懸賞に当たったの か、これもみんなチュウ(忠)のおかげだ。

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