日銀の国債・株式買入れと市場への影響2018/08/11 07:15

 白井さゆり教授の講演は、いよいよ(3)日銀の資産買入れと国債・株式市 場、を扱う。 まず日銀の政策を確認する。 日銀は大量の国債を買入れてき た。 最初は年間50兆円規模、2014年10月から80兆円に増やした。 2017 年12月の日銀の国債保有比率は46%(426兆円)だったが、現在は50%程度 になっている。 民間銀行や保険会社など、ほかにも国債を保有せざるをない 人たちがいるので、もはや80兆円規模では買えず、実際は50兆円を切り、今 後の買入れはさらに難しくなるだろう。

 そこで日銀は操作目標を変更した。 量的金融緩和が限界に近づき、金利も 下がりすぎたため、2016年9月、マイナスに沈んでいた10年物国債の利回り を0%に引き上げ、そこで安定させるという目標に変えた。 目標を量から金 利に変えることで、国債買入れを減らすことができているのだ。

 このことは何を意味するのか。 確かに無理して国債を買い進めるよりは操 作目標を変えてよかったと思う。 また、企業や家計がお金を借りる際には金 利が低水準で安定していると助かる。 しかし、百万円持っている人が、10年 もの期間、金利0%で貸すだろうか。 誰もが低い金利でお金が借りられれば、 業績が悪く将来の展望も開けない企業まで生き延びて、新陳代謝が起きにくく なる。 つまり、この政策は長く続けるとリスクが伴うのだ。 資源配分も歪 み、イノベーションの機会が失われる。 優れた企業が成長し、劣った企業が 淘汰されるという市場のダイナミズムも機能しなくなるという弊害がある。

 次に、日銀は間接的にETFで株式を購入している。 徐々に増やし、現在は 年間6兆円ほど買っている。 日銀による株式の買入れと株価との間には強い 相関が見られるから、一定の効果があったと言える。

 日本の株高は、日銀の買入れの効果もあるが、円安の影響を受けていること も明らかだ。 市場を動かしたのは、海外のヘッジファンドで、安倍政権誕生 のときも、2016年11月6日のトランプ氏の勝利でも、円売り・株買いという ポジションを取って大きく利益を上げ、円安・株高を主導した。 実際、近年 の日本の株式市場は売りも買いも6割程度が外国人で、個人投資家のシェアは 2割以下だ。 信託銀行も比較的売買が大きく、日銀とGPIF(年金積立金管理 運用独立行政法人)が信託銀行を通して買っており、この部分は緩やかに増え ている。

 株価指数(TOPIX)を企業規模別に三分類し、時価総額の小さい企業をトピ ックス・スモール、中規模の企業をトピックス・ミッド400、大きい企業をト ピックス・ラージ70と呼ぶ。 日銀は日経平均株価とトピックスなどに含ま れる株式を年間6兆円ほど買っている。 そうすると、同じように買い入れて も、時価総額が小さい(発行株式数が少ない)会社の株価ほど割高になる。 つ まり、規模の小さい会社ほど過大評価になりやすい。 逆に、日銀が売ると、 小規模な会社ほど株価が大きく下落する可能性がある。 また多くの株式は筆 頭株主が日銀やGPIFになっており、企業統治面でも問題が指摘されている。

 アベノミクス前の日経平均株価は7千円台だったが、現在は2万円を超える ところまで上昇している。 そこにはアベノミクスが大きく影響したわけで、 プラスの面もたくさんあったと思われる。 しかし、これだけ株価が進んだ現 在でも、年間6兆円もの株式を買う必要があるのか。 現在の株式市場は、本 当に需給で成り立っているのか、企業のファンダメンタルを反映しているのか、 そうした疑問が湧いてくる。

 なぜ多くの中央銀行が株式を買わないか。 国債や社債の場合は、やがて満 期が来て現金償還される。 しかし、株式保有は中央銀行が売らない限り減ら せない。 そして中央銀行が売るときには、市場に予告するが、その売るとい う行為自体が株価を下げてしまう恐れがある。 欧州各国の中央銀行もさまざ まな資産を買い入れており、株式の買入れも検討したと聞いているが、このよ うな問題があるため断念したようだ。 株式の購入は上場企業の資金調達を有 利にし、中小の非上場企業には恩恵が届かない、この点も考慮されたようだ。

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