「笑顔の写真」その後〔昔、書いた福沢63〕 ― 2019/05/29 07:14
「笑顔の写真」その後<等々力短信 第652号 1993(平成5).10.25.>
「等々力短信」第638号の「笑顔の写真」に、「日本人で、最初に笑顔の 写真を撮らせた人は誰だろうか。 『ゴードン・スミスのニッポン仰天日記』 で1898(明治31)年、蓄音機のコミックソングに笑っている、土人のよ うな伊勢の垂乳根の海女さんかな」と書いた。 その後、あれこれ探してみた ので、ちょっと中間報告をしておきたい。 古い写真の外人たちも、みんな難 しい顔をしている。 写真の実用化から、日本渡来までたったの9年、日本初 は、世界初という可能性だってあるわけだ。
文春文庫ビジュアル版小西四郎編『目でみる日本史 維新の青春群像』の中 で、中岡慎太郎が笑っていた。 歯を見せて、豪快に笑っている。 ご存知の ように、中岡慎太郎は「ええじゃないか」の1867(慶應3)年11月15 日に、坂本龍馬と一緒に京都で斬られたから、この笑顔は少なくとも慶應年間 のそれということになる。 この薩長連合の功労者二人は、佐幕公武合体派の 演出した大政奉還(10月14日)と、武力討幕派の王政復古のクーデター (12月9日)のちょうど中間に、夢に描いた新しい世を見ることなく死んで しまった。 笑っていそうな坂本龍馬が、あの遠い所を見ている難しい顔で、 堅物らしい中岡慎太郎が、笑っているというのが面白い。 この中岡の写真、 奈良本辰也編『明治維新人物事典 幕末篇』(至誠堂新書)の中岡の項でも使 われていた。
『維新の青春群像』には、小沢健志九州産業大学教授(写真史)の「レンズ のむこうに維新が見える~幕末写真事始め」という一文も収録されており、日 本最初の写真師である上野彦馬や下岡蓮杖らの事績や、その撮影した写真が紹 介されている。 長崎の上野彦馬は慶應年間に、坂本龍馬の上記「遠い所を見 ている」写真を始め、高杉晋作、伊藤博文、桂小五郎などの若き志士たちの肖 像写真を撮影している。 「笑う中岡」写真には説明がないけれど、これも、 その上野彦馬の撮影なのだろろうか。 上野彦馬の写真集か、関係の書物をさ がせば、確認できる(撮影時期も)かもしれない。
『甦る幕末~ライデン大学の写真コレクションより』(朝日新聞社)には、 福沢諭吉を含む1862(文久元)年~63(文久2)年の遣欧使節一行が、 滞欧中に撮影した肖像写真が沢山収録されている。 芳賀徹さんの『大君の使 節』でその名を知っていた「尾蝿欧行漫録」の市川渡が微笑み、「欧行日記」 の淵辺徳蔵が歯を見せている。 中岡ほどはっきり笑っていないが、古いこと は、こちらの方が古い。
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