三遊亭歌武蔵の「柳田格之進」後半2020/02/08 07:05

 明くる日、五十両だ、萬屋、持って参れ。 脇でこしらえたものだ、後日他 から出た折には、どうする。 お詫びの印に、こんな首でよろしかったら、う ちの旦那、源兵衛の首と二人、一緒に差し上げます。

 旦那様、五十両が出ました。 どこから出た? 柳田様がお持ちになったよ うで、出すっておっしゃって。 五十両、どうぞお受け取り下さい。 余計な ことをするんじゃないよ、よしんば柳田様がお持ちになったとしたら、よくせ きのことだ。 返してきなさい。 いや、一緒に行こう。 二人が柳田の長屋 へ行くと、裏の戸も釘付けで、親娘はいなかった。 ああ、惜しい友を無くし た。 家主も行く先を知らず、いろいろ探したが、一向に見つからなかった。

 去る者日々に疎し。 八月十五夜の晩に五十両がなくなった年の、暮の二十 八日、萬屋は煤掃き、大掃除だった。 旦那、大変です、貞吉が額の裏から、 お金のようなものを見つけました。 五十両、そうだ、あの時、はばかりに立 ったんだ、額の裏に挟んだ。 そうか、柳田様はいったいどうやって五十両を …、どうする、探しておくれ。 よした方がよろしいかと、首を差し上げると 言いました。 そんな首、差し上げたらいい。 旦那の首も、と申しました。  仕方がない、番頭の粗相は、主に帰ってくる。 黙ってましょう。 どうやっ て五十両をこさえたのか、盗人の汚名を着せて、そのままにはできん。 みん なで探そう、見つけた者には、褒美に三両出す。 みんな出世の為だと、探し 始める。 観音様に願をかけ、お百度を踏む。 境内の易者が、きっと見つか ると言う。

 一陽来復して四日目、番頭の徳兵衛、鳶頭をお供に、山谷のお得意に年始回 りに行った帰り、湯島の切通しにかかる。 下から駕籠が一丁、身分の高い者 が乗るあんぽつの駕籠の横に侍が立つ、坂なので降りたのだろう、宗十郎頭巾 に羅紗の長合羽、柄袋の両刀を手挟んだ、立派なお武家だ。 すれ違う。 萬 屋の御支配、徳兵衛ではないか。 柳田格之進様、お久しゅうございます、大 変なご出世で。 心に欲せぬことがあって、伺えない、古巣に帰参が叶って、 三百石頂いておる。 湯島の境内で、一献やろう。 鳶頭、柳田様だ、旦那に 言っといてくれ。 見つかって、春から縁起がいい、早桶か線香立か贈りまし ょう。

 柳田と徳兵衛、天神様に入る、徳兵衛はお閻魔様に入るよう。 徳兵衛、す ってんと転んだ。 一献参る前にお話が、昨年暮の煤掃きの時に…。 出たか、 何たる吉日なるぞ。 時に、その折、約束したことを覚えておろうな、 明日、 昼過ぎに萬屋方に参ろう。 ゆっくりと湯に入って、首の垢を落しておけよ。

 鳶頭から聞いたよ。 番頭さん、明日の朝、品川へ使いに行ってくれ。

 柳田は黒紋付、二本差して、進物を抱えて、これはつまらぬものだが、とや ってきた。 早速ですが、お話がございます。 番頭徳兵衛は、老いたお袋と 二人でございまして、徳兵衛の命だけはお助け下さい。 私だけを、お斬り下 さい。 徳兵衛、何だ、使いに行かなかったのか。 旦那様は、あの時、行く なと申したのに、私の一存で、柳田様の所に参ったのでございます。 私だけ を、お斬り下さい。 黙れ、黙れ、今さらそのようなことを申して何とする、 両名とも討ち果たさなければ、娘絹に申し訳が立たぬ。 あの五十両、娘絹が 身を落してこしらえた金だ。 えーい、という掛け声とともに、床の間の碁盤 が真っ二つ。 両名を斬らんとしたが、主従の情を目の当りにして、柳田の心 が揺らいだ。 両名を助けてつかわす。

 吉原に身を落していたお絹を、番頭と鳶頭が吉原に行って、身請けをして帰 って来る。 娘も、両名の者を許してくれと申して居る。 今だったら、裁判、 慰謝料、何とかしてよ、という話になるけれど…。 父上がよろしければ、絹 に異存はございません。 やがて、絹と番頭が夫婦となって、萬屋源兵衛の夫 婦養子になったという。