三四郎池で福永末次郎に無理難題を2020/12/08 06:57

 ヨセフは婚約者のマリアが精霊により懐妊したことを知り離縁しようと思うが、天使から、その子が民を罪から救うと告げられ、マリアを妻として迎え、出産まで体に触れずに、イエスを育てた。 トヨに責務回避の自覚がなかったにせよ、姦淫に違いなく、それでも産んで育てれば罪は赦されるのではないか。 トヨが人生において必要としているのは、天使の言葉を信じて、マリアを受け入れたヨセフである。

 秋吉利雄の父・井上岩吉の弟、菊次郎は福永家に養子に入り、福永菊次郎だった。 菊次郎は確か関という家の五男、末次郎を養子にした。 末次郎は、利雄の一つ下で、修猷館から一高、東京帝国大学法科大学に進んだ。 利雄と兄の新、妹トヨは、幼い時から、従弟の末次郎、従妹のミ子(みね)やチヨと、よく遊んだ。 その頃から、末次郎はトヨが好きだった。 トヨのことをずっと目で追っていた。

 その福永末次郎、今は経済学科で、卒業までまだ二年ほどあるはずだった。 トヨを連れて東京に出た秋吉利雄は、翌朝トヨを宿に置いて、電報で呼び出した末次郎と東大赤門で会った。 三四郎池で、「おまえ、トヨを嫁にもらってはくれないか?」 事情を説明し、「無理難題を承知の上で話している。よく考えてくれ」 末次郎はバプテストの信徒だった、井上の皆さんのように熱心ではないが、今でも日曜日には近くの教会に行っているという。 自分には本当の信仰がない、トヨさんのように心から主にすがるのではないから、もしもトヨさんを娶るとしたら、結ぶのは信仰ではない。 昔から好きだったが、それでは不十分だ。 この話を受けるなら、今ここで自分を促す理由は一つ、幼なじみのトヨさんの苦境だ。 救えるなら救いたい。 容易なことでないのは承知だ、二人とも生涯の秘密を抱えることになる。 「救いたいという一方で、実は先ほどからトヨさんと暮らせる楽しさも思っておりました。世の中に不縁に終わる夫婦もいるけれど、自分たちは初めに少しの荷を負っても終生盤石という気がする」 「しかし俺はおまえにヨセフの立場をおしつけているんだよ」 「そんな、もったいない。生まれてくる子が救い主ではないでしょう」

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