教育者でプロジェクトリーダー津田梅子、「利他」の心2023/01/20 07:09

 16日に「慶應義塾大学」を引いた3日の新聞朝刊の「新春 躍進する大学」の広告だが、「津田塾大学」は髙橋裕子学長が「利他の心と女性たちの絆で「変革を担う」人を育てる」の見出しで、こう書いていた。

 「みなさんが学校で「歴史」を教わった時、取り上げられた重要人物のなかに女性はどれだけいたでしょう。そしてそのなかで、個人として優れた業績を残した文学者や美術家以外の人が何人いたでしょうか。おそらくほとんど記憶にないのではないかと思います。

 本学の創設者である津田梅子は、まだ女子が男子と同じように高等教育を受けることが認められていなかった時代に、米国や英国の先例を参考にしながら、女子のための高等教育機関「女子英学塾」を開校しました。つまり梅子は教育者であると同時に起業家であり、人を集め、お金を集め、事業を継続させるための仕組みを作ったプロジェクトリーダーでもあったということです。その点で、歴史の教科書に登場する女性たちの中で稀有な存在といえるでしょう。

 昨年9月に私は、主に若い読者に向けて梅子の足跡や思想をわかりやすく紹介する『津田梅子-女子教育を拓く』(岩波ジュニア新書)という書籍を刊行しました。多くの資料をひも解くなかで私自身も再確認したのは、彼女も決して完全無欠の人などではないということです。時には子供のように喜んだり、怒ったり、落ち込んだり、その姿は私たちと何も変わるところがありません。

 にもかかわらず同時代の誰にもできなかったことを成し遂げられたのは、彼女の行動の根底にはいつも「利他」の精神があったからです。日本初の国費女子留学生という「不思議な運命」に導かれて米国に学んだ梅子は、大人になってもう一度海を渡り、自分に続く日本の女性たちが米国で高等教育を受けるための奨学金制度をつくりました。そしてそこから女子英学塾創設へと続く彼女の夢を支え続けたのは、世代も国籍も超えた女性たちの「シスターフッド(姉妹のように相互に助け合う関係)」であったことも特筆に値します。

 津田塾大学では、学長、学部長をはじめ各部署の責任ある立場で多くの女性たちが活躍しています。「女性なのに」すごいのではなく、女性も当たり前に自分の能力を生かせる環境があるということです。年の初めにあたり、あらためて梅子の利他の心に立ち返り、厳しくも温かな学びの環境のなかで変革を担う女性たちの明日を拓いていきたいと、思いを新たにしています。」