柳家さん喬の「夢の酒」前半2023/04/03 07:00

 春爛漫、この雨で満開の桜が、ちょいとしぼむ。 夢は、どこで見るのだろう、頭か、心か。 夢を見る、と、夢を持つ、は違う。

 あなた、若旦那、起きて下さい。 風邪を引きますよ。 大黒屋さんの若旦那さん、起きてよ。 笑ってる。 いけません、なんだ、お花か。 あなた、夢を見ていたでしょう、どんな夢だったか、聞かせてよ、ちょっとでいいから。 店では大勢でしゃべって楽しそうなのに、奥は一人ぼっちで寂しい、こんなドジをしたって、笑っていたい。 夢なんか、見てません(と、羽織を脱ぐ)。 ね、話してよ。 私は噺家じゃない。 話してもいいけど、お前怒るよ。 怒りませんよ。 本当に怒らないか。

 向島をぶらぶらしていたんだ。 花柳界で、三味線や太鼓が聞こえてくる。 三囲神社、長命寺、牛のごぜんさま(牛嶋神社)。 突然抜けるような雨が降って来た。 一軒、軒のある家で雨宿りをしたら、中戸が開いて、女中さんが出て来て、そんな所で雨宿りしてないで、奥でと、ご親切に言う。 あら、大黒屋さんの若旦那さんじゃありませんか。 店のお客さんなのか、私のことを知ってるんだ。 ご新造さん、あなたの恋焦がれている大黒屋の若旦那さんが来ていらっしゃいますよ、と奥に声をかけた。 お清、上がって頂きなさいと、泳ぐように出て来た、その顔をまじまじと見て、世の中にこんなきれいな人がいるのかと思った。 目元に憂いがあるが、口元には笑みをたたえている。

 酒、肴のお膳が出て来た。 私が親父と違って下戸だと言うと、おばあちゃんのお酌じゃおいやでしょうけれど、毒が入ってるんじゃないから、一杯だけでも飲んで下さいとすすめる。 それで、じゃあと一杯飲んだ。 私も一杯ってんで、ご返杯。 やったりとったりして、二人で五、六本も飲んだかな。 えっ、あなた、お酒を飲んだんですか、二人で。 この話、止めた。 話して下さい、それでどうなったか。 ご新造が三味線を取り出して、端唄、小唄、都々逸になった。 ♪これほど想うにもし添わざれば、わたしゃ出雲に暴れ込む。 その顔の色っぽいこと。 それで、どうなったんです! 怒ったじゃないか。 怒ってません!

 飲めない酒を飲んだものだから、頭が痛くなった。 清や、蒲団を敷いとくれ。 横になると、ご新造が手拭いを絞って、おでこにあててくれた。 気分がよくなったので、これでお暇しますと言ったら、ご新造が私も頭が痛くなった、と言う。 私も若旦那のそばにって、帯をするするっと解くと、派手な長襦袢で、蒲団の中に入ってきた時に、お前が起こしたんだ。 ヒーーッ、くやしい! あなたという人は、何てことをするんです。 怒ってるじゃないか。 怒ってません、お父っつあんに言い付けます、あなたのしていることが、正しいか、正しくないか。

 倅もお花も、大声を上げて、何をしているんだ。 店に聞こえるじゃないか。

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