春風亭一之輔の「帯久」上2023/04/07 06:57

 人間は見た目が大事。 自分では、そこそこだと思っているけれど、中三で32歳に見られた。 見た目が年齢に追いついてきて、今年45。 45で、まだ若手といわれる。 一朝に入門した時、師匠は50だったが、若手と言われていた。 皆さん、元気でいて下さい。 安室奈美恵と同い年だが、むこうはもう引退している。 今は寿命が延びたが、60で本卦帰り、赤ん坊に帰るといわれていた。

 本町一丁目に、和泉屋与兵衛という呉服屋があった。 主人は温厚な人柄で、店も繁盛している。 本町二丁目に、帯屋久七という同業があったが、客がいない。 和泉屋さんのご主人にお話があると、やって来た。 小僧が、主人に会う間があるか、番頭に聞く。 売れず屋さんが来ました。 こら、子供のくせに、そんなことを言うもんじゃない。 和泉屋は、中にお上げなさい、と。

 失礼します。 そこは端近か、遠慮なく、お入りを。 こちらはご繁盛で結構です、実は私、お願いがあって。 晦日に難渋しておりまして、いくばくかご都合いただきたい。 いかほど。 二十金(二十両)。 どうぞ、お持ち下さい。 無利息、無証文、男と男の約束で。 助かります。 酒を振る舞って、帰す。 二十日もすると、二十金返してくる。 また、酒を振る舞う。 五月の晦日に三十両、二十日して返す。 七月五十両、二十日して返す、酒を振る舞う。 九月七十両、どうぞ、二十日ばかりで返る。

 十一月末、百両何とか。 結構、どうぞ。 暮になっても、持って来る気配がない。 大晦日、ご主人、帯屋のご主人が百両お返しに。 入ってもらいな。 遅くなりました。 ご主人、番町の加藤様が主に来てもらいたい、と。 家内に、お茶をお出しするように。 座敷には、帯屋と百両。 帯屋は、懐に入れて、帰る。

 夕方和泉屋が帰ると、百両どうした? 抽斗(ひきだし)にもない。 店の者をみんな、呼んでくれ。 お年玉か、と喜ぶ小僧に、亀、お年玉は明日だ。 金の包み、百両を知らないか? みんな、知らない。 亀どんが盗ったに違いない、この頃、金遣いが荒い、焼き芋を両手で持っていた。 貞、そんなことを言うもんじゃない。 おかみさんがお茶を淹れに行って、部屋に残っていたのは、帯屋さんと百両。 だが席を外したのは、私の粗相だ、今年のいい厄落としが出来たということにしよう。

 帯屋は、春から景品をつけたので、ひっきりなしに客が来るようになった。 一方、和泉屋はさっぱり売れなくなった。 三月に一人娘が亡くなり、五月にはおかみさんも亡くなった。 享保六年十二月十日、神田三河町からの火事が鉄砲洲から築地までの大火となって、和泉屋も丸焼けとなった。 与兵衛は、分家をした武兵衛という奉公人の家に世話になるが、どっと病の床につくようになる。 武兵衛も人が良くて、他人の請け判をついたために店を潰し、主と二人、裏長屋暮らしをするようになった。 十年が経った。

 与兵衛は、少しは体がきくようになったので、帯屋のところへ行って来ようと思う、と言い出す。 金の無心、お前にまた店の一つも持たせてやりたい、その商いの元手に、と。 帯屋は、和泉屋の客を奪って、繁盛し、金貸しまでしている。 武兵衛は、やめておきなさいと言う。