隅田川馬石の「双蝶々~権九郎殺し~」前半 ― 2024/12/14 07:04
馬石は、紫の着物に黒の羽織。 「双蝶々」、三遊亭圓朝のこさえた別名「小雀長吉」という噺で、最後の殺しの場は「芝居がかり」になる。 「小児は白き糸の如し、朱に交われば赤くなる」 湯島大根畑に住む八百屋長兵衛の子長吉は、生まれついての悪性で、長兵衛の後妻のお光に、銭くれよ、寿司食うんだから、と。 お光の用意した、おかかで飯なんか食えるか。 鰹節なんか、猫の食い物だ。 長坊、罰が当たるよ。 太鼓なんか、のべつ撥が当たってらあ。 お前なんか、嘘のおっかあだい。
親父の長兵衛は、ぼてふりの八百屋で、酒癖がよくない、酒乱になるとお光をぶったり、なぐったりする。 家主が長兵衛を呼び、お前は酒癖が悪い、お光に乱暴すると、腕が腐っちゃうぞ、金輪際酒を飲まないか、内輪内輪に飲め、それから長吉がよくねえ、早いとこ奉公に出したほうがいい、と諭す。 長吉は、七兵衛稲荷の賽銭箱に手が入らないので、カブトムシに糸をつけて垂らす。 天婦羅屋の爺さんの屋台の足に、独楽の紐を結わえて、引っ張って引っくり返した。 売り溜めを探して盗り、揚げ立てのギンポウをみんな食った。 魚屋がお長屋に売りに来て、干物を並べると、くさやの干物を隠し、犬が干物をくわえて逃げて行ったと言い、家の中に放り込んだ。 奉公は、銭を扱わねえとこがいい、上げちまえ、お光っつあんを大事にしろ、と家主。
長吉は、下谷山崎町の玄米問屋山崎屋に奉公する。 利口者で、算盤も上手い。 松、幾らだ? わかりません。 長吉は、ピタリピタリと合わせる。 上の者に、お茶、煙草を用意する。 大番頭が目をつけた。 如才なくやっているが、どこかで、何かやりそうだ、と。
十八になった長吉。 湯に出て、いつも帰りが遅い。 番頭の権九郎があとをつける。 長吉は下谷の広徳寺前で、今の台東区役所のところ、「恐れ入谷の鬼子母神、びっくり下谷の広徳寺、どんな門だい○○寺」の、広徳寺前で、ほっかぶりをして、砂利を拾って葦簀(よしず)にぶつける。 出て来た男に、仕事はあるかい? 芝居帰りの女が二人、あれをやっつけよう。 長吉は、女たちの前へまわって、帯の下に手をやり、頭を下げたところを、簪(かんざし)を抜いた。 番頭の権九郎はそれを見ると、店に帰って、奉公人の仕着せ文庫、長吉のを検める。 高麗青磁の煙草入れ、印籠、櫛、笄などのほか、金が十両出て来た。 あれでやりやがったんだ。
定吉、長吉は戻ったか? 長吉を二階へ呼ぶ。 中へお入り、あとを閉めて。 風呂はどこまで行くんだ? 坂本まで。 今日行ったのは、広徳寺前の葦簀だろう。 出店の長五郎と、盗みをしているな。 そんなことはしていません。 証拠をみせようか、あとをつけてわいの目で見たんだ。 似た者もいる、見間違いでしょう。 これは、われの文庫や、高麗青磁の煙草入れ、印籠、櫛、笄、どないした? 持ち物道楽で、買ったんです。 正直に言え、旦那様に話をすれば、長のお暇(いとま)や。 盗みをいたしました、たまたま母に会いまして、父が腰が抜けて働けない、いい薬を買ってやりたいというので、他人様の物に手をつけました。 親の為にしたんか、これからはしてはならんぞ。
わいから、一つ頼みがある。 番頭さん。 もそっとそばに寄れ、あのなあ、吉原の半蔵松葉屋に若旦那が通っている。 その女を五十両で身請けしてしまうことになっている。 今夜の内に、請け出すんだ。 誰だ! 梯子段の中途で聞いているのは? 定吉か、下へ行け! だが店には金がない、お内所の奥、旦那の洋箪笥の抽斗にある、お前、盗って来てくれるか。 それはいけません、ご主人様のものは盗れません。 でけんか、じゃあお前、馘だな。 今一度だけ盗って、あとずっとしなければいいのだが…、盗らんか? 盗ります。 長吉大明神や。 九つ(午前零時)に、浅草の西河原田圃、六郷様の塀外で待っている。 早く、寝ろ、早く寝ろ。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。
※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。