長い長いコノワタの話2006/12/28 08:05

 海鼠(なまこ)と煖房(だんぼう)の句会で、私が選句したのは、つぎの七 句。

眠る眠る海鼠となって海深く       和子

海鼠酢のこりこりとして父想ふ      輝美

顔洗ふゆたんぽの湯の金臭き       英

炉明りも妻ゐしころと変らざる      英

マフラーが手編みに替わる息子かな    けん詞

団欒の生家の煖炉はるかなり       和美

老猫は端座しストーブ点火待つ      耕一

 私が「下戸にして海鼠腸(このわた)が好き熱い飯」と詠んだ海鼠腸だが、 丸谷才一さんの近刊『双六で東海道』(文藝春秋)に「孔子とコノワタと大根お ろし」なる一文があって、川上行蔵著、小出昌洋編『日本料理事物起源』から の薀蓄が書いてある。 川上さんが熊本県天草の親戚からもらったコノワタ、 味は極上だけれど、一本の長さが一メートルもある。 口へ放り込んで噛み切 れるものと思って食べたが噛み切れない。 何とか消化するだろうと思って飲 み込んだが、一部分は胃に納まっていると思うのに、まだ続きが歯に挟まって いて噛み切れない。 手で曳っ張ると胃からまた戻ってきそうである、という のだ。 川上行蔵さんがコノワタを食べている、和田誠さんのイラストまでつ いている。

 丸谷さんはコノワタを青山の紀ノ国屋で買う「安くはないけれど、でもまあ 買ふ。見かけると、ついふらふらと大枚を投じてしまふ」。 わが家ではコノワ タは、正月のご馳走である。 瓶詰(先は樽、小鯛の笹漬が入っているような) を、割り箸で手繰って、鋏で切る。 昔の鉄の鋏で切っていると、英先生の句 ではないが「金臭い」匂いがした。 昔、母がたまたま暮に来ていた、コノワ タなんて気色が悪くて、よう扱わないという桑名の叔母に、無理矢理、切らせ たことがあった。 妹だから、万事に無理を言うのだった。 コノワタという と、この一ッ話になる。