小三治「一眼国」のマクラ2007/04/03 07:43

 小三治が上がったのは、8時27分だった。 常の終演まで、1時間近くある。  50年、長いんでしょうね、と、きた。 私が17,8、噺家になるまで、あと何 ヶ月か、という時のこと。 その時、歴史が動いた。 浅草の観音様の裏庭に、 奥山というところがある。 ずっと裏は、また別の環境ですが…。 奥山には 見世物小屋があった。 小屋といっても、間口のいささか広い公衆便所のよう なものが並んでいた。 その昔、両国橋の手前の広小路と、橋を渡った回向院 の境内の両方が盛り場で、競い合っている。 見てはいないけれど。 その両 国が、だんだん浅草に移って行ったん、でしょう。 なにしろ、見ていないん で…。

 夏は、お化け屋敷。 おや、こんな所にって、思ったのは、川口の駅前のビ ルの二階、ふだんは和服の展示即売会をやっているというような所、エレベー ターが開くと、お化け屋敷だった。 天井が低い。 驚かなきゃあ、木戸銭は 返す、というのだが、必ず木戸銭は取られる。 商売だから、あの手この手で、 驚く仕掛けがしてある。 正面に萱葺きの破れ家があって、白髪のおばあさん が座っている。 異形なのか、のっぺらぼうか、ろくろっ首かと見つめても、 少しも動かない。 足もとが変なので、見ると、蛇が敷き詰めてある。 コロ コロッ、グニャとしている。 これには、驚く。 池があって、中の島まで土 橋が渡してある。 橋の中ほどまで進むと、穴が開いていて、そこから毛むく じゃらの手が出て、股ぐらを掻き回す。 これも驚く。  音がする。 古井戸の上に、藪がかぶさっている。 ポタン、ポタンと、小 さな音がする。 その音が次第にかすかな音になっていく。 突然、ガタンと 大きな音がして、びっくりする。  出口で、驚かなかったと言うと、ちゃんと見てました、古井戸の所で驚いた でしょう。 手帳についている。 

 見世物小屋の表には絵看板があって、若い衆が声をかけている。 「大ザル 小ザルだよ」。 どんな大きな猿がいるのかと、木戸銭を払って入ると、大きな 竹ザルと小さな竹ザルが、ただ置いてある。 「世にも不思議なベナだよ」と いう小屋がある。 ベラと鮒の合の子でもいるのかと、木戸銭を払って入ると、 大きな鉄の鍋が逆さまになっている。 そばに男が立っていて、時々竹の棒で 鍋のケツをひっぱたきながら、やる気のなさそうに「ベナ」と言う。 客はや られたと思いながらも、「粋だねえ」などと言いながら、表に出てくる。  書けば、なんだという、これを、声の強弱、間、あの顔で、聴かせるのが、 小三治の芸である。

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