ケア・マネージャーという仕事2012/08/04 00:57

 ひと月ほど前、NHKだったか、民放だったか、はっきりしないのだが、ニ ュースの中の特集で見たのだった。 病院が長期の入院を避けるため、どんど ん患者を退院させる話だった。 末期のガンであったか、ひとり暮しのその人 は、自宅であるアパートに帰り、ケア・マネージャーという女性の立てた計画 に従い、交代でやって来る訪問ヘルパーに介護されながら、その後の日々を過 ごすことになる。 ケア・マネージャーも介護の人も、とても親切でよくして くれるのだが、当然、入院中のような治療やケアを受けられないから、しだい に痩せて、衰えて行き、ついにはある日ヘルパーが訪問したら、亡くなってい た。 身寄りのない、その人を御骨にして弔うところまで、民生委員のような 人とケア・マネージャーが面倒を見るのであった。 たいへんな仕事をよくや る、親切なものだと思った。

 ケア・マネージャーについて、そんな知識があったところで、山田太一さん の『空也上人がいた』(朝日新聞出版)を読んだ。 ケア・マネージャーの重光 さんは、四十半ばの女性。 中津草介は二十七歳、ヘルパー2級の資格をとっ て、特養、特別養護老人ホームに二年四ヶ月勤めていたが、ある事があって辞 めたばかりだ。 重光さんは、紹介したい仕事があると、草介のアパートまで 来た。 「介護保険とは関係なく、八十一歳の男性で、持ち家で独り住い。車 椅子だけど、認知症はなし、トイレは自分で出来て、お風呂は浴槽の出入りに 介助があればあとは自分で出来る。洗濯機は全自動。通いでいい。月二十五万」  食事や買い物や掃除は、して貰う、一緒に食べてもいいし、若い人向きに別に つくってもいい、あと週一回病院へのリハビリ通いにタクシー呼んで付き添う だけ。 まだなんかありそうだけど、と思うけれど、重光さんは「でも四十人 を二人でみる夜勤はない。オムツもない。食べさせる手間もない。徘徊もない。 怒り狂って叫び続けるおばあさんもいない」と言う。

 翌日の午後、草介と待ち合わせ、その吉崎征次郎さんの家へ連れて行った重 光さんは、途中で人使いの荒い老人が出て来る落語の『化物使い』の話を楽し そうにして、曲がるところを行きすぎた。 「笑っちゃうね」と言い、その訳 を「いっちゃうね」と話す。 「さっき駅で後ろから声をかけられて振りかえ ったときから変になっちゃったの。冗談みたいだけど、舞上がっちゃった。こ れって私の気持がどうの心理がどうのということじゃないのよ。まったく生理 的動物的な反応で、信じられないでしょうけど、若い男と待ち合わせて二人で 歩いているというだけで、うわずっているの。」