その後、おかるはどうなったか、「七段目」2022/11/29 07:01

その後、おかるがどうなったのか、気になるのは、私だけではあるまい。

 「七段目」祇園一力茶屋の場、あらすじを見てみる。 祇園の一力茶屋に、師直の家来鷺坂坂内と、もと塩冶の家老斧九太夫がいる。 九太夫は、師直の側に寝返り、内通していた。 二人は大星由良之助が、仇討を忘れたかのように祇園で放蕩に明け暮れているという噂を聞き、それを確かめに来たのだった。 由良之助は二階座敷で遊女たちを集め、どんちゃん騒ぎをしている。

 そのあと、もと塩冶の足軽寺岡平右衛門の案内で、塩冶浪士の矢間十太郎、千崎弥五郎、竹森喜多八の三人が、一力茶屋に由良之助の放蕩の噂を聞き、心配で訪ねて来る。 由良之助は酔っ払っていて、話にならない。 仇討など馬鹿げたものだと言い放ったので、矢間たちは腹を立て、由良之助を斬ろうとするが、平右衛門になだめられる。

 酔いつぶれて寝ている由良之助のところに、息子の力弥が顔世御前の急ぎの密書を持って来て、師直が近々自分の領国に帰ることを伝えて去る。 由良之助が密書の封を切ろうとしているところに、斧九太夫がやってきて由良之助と盃を交わす。 この日は旧主塩冶判官の月命日の前日、つまり逮夜で魚肉を避けて精進すべき日だったが、九太夫は由良之助の本心を探ろうと、わざと肴の蛸を勧める。 由良之助は平然と食べ、幇間や遊女と奥へ行く。 そこに鷺坂坂内が来て、置き忘れた由良之助の刀に気づき、抜いてみると、刀身は真っ赤に錆びていたので、二人で嘲笑う。 だが、九太夫は最前力弥が手紙を渡すのを見ていたので、まだ座敷の縁の下に隠れて様子を伺うことにする。 坂内は九太夫が帰ると見せかけた空の駕籠に付き添って、茶屋を出て行く。

 勘平の女房のおかるは、はたして遊女になっていたが、今日は由良之助に呼ばれて、この一力茶屋に来ていた。 酔い覚ましに二階の座敷で風に当たっていると、下の縁側で由良之助が釣燈籠の灯を頼りに密書を読み始めた。 師直の様子がこまごまと記されている。 おかるが簪を落とした音で、気付いた由良之助は密書を隠して、おかるを呼ぶ。

 そばにあった梯子で、わざわざふざけながら、おかるを降ろし、自分が身請けしてやろうと言い出す。 男があるなら添わしてもやろう、いますぐ抱え主と話をつけてやるといって、奥へ行く。

 夫の勘平のもとに帰れるとおかるが喜んでいると、兄の寺岡平右衛門(先に三人を案内して来た塩冶家の足軽)が現れる。 おかるが由良之助の読んでいた書状の内容を、ひそかに平右衛門に話した。 残らず読んだそのあとで、互いに見交わす顔と顔、じゃらつき出して身請けの相談、それでわかった。 妹、とても逃れぬ命、身共にくれよ、と平右衛門は刀を抜いて、斬りかかろうとする。 驚くおかる、許して下さんせと兄に向って手を合わせると、平右衛門は刀を投げ出して、その場で泣き伏した。

 平右衛門は六月二十九日の夜、父与市兵衛が人手にかかって死んだことを、おかるに話した。 さらに、請出されて添おうと思う勘平も、腹切って死んだ、この世にいないことを話す。 あまりのことに兄に取り付き泣き沈むおかる。 身請けしようというのは、密書の大事を漏らすまいと口封じに殺すつもりに違いない。 ならば自分が妹を殺し、その功によって仇討に加えてもらおうと、悲愴な覚悟で平右衛門はおかるに斬りつけたのだ。 聞き分けて命をくれ死んでくれ妹と、おかるに頼む平右衛門。

 やがて、おかるは覚悟を決めて自害しようとする。 そこへ由良之助が現れ、兄弟ども見上げた、疑い晴れたと、敵と味方を欺くための放蕩だと本心をあらわし、平右衛門が仇討に加わることを許し、おかるは生きて父と夫への追善をせよと諭す。 さらにおかるが持つ刀に手を添えて床下に突き刺すと、そこにいた九太夫は肩先を刺されて七転八倒、平右衛門に床下から引きずり出された。