雷門小助六の「猫退治」2024/11/25 07:00

 小助六、ひょいひょいと出て来る、髪は七三。 学校寄席に呼ばれるけれど、冷暖房無しの会場だ。 9月上旬、千葉県の流山の小学校の体育館、暑い。 子供に間違いがあってはいけないので、休憩時間を取ってくれ、と言われる。 5回取れ、と。 子供たちは、水筒を持ってきている。 先生が、霧吹きで水を撒く、植木みたいだ。 舞台の上から見ていると、地獄絵図。 校長が子供たちに、よくここまで我慢できましたね、もう少しで終わりますから、と。 ヤッターーッ! ヤッターーッ!

 心の病というのがあるけれど、落語家も、厄介なところがある。 癒しで、猫を飼っている。 ヨソの猫も借りて来て、なでなでする。 だけど、それと同様に、ヨソの女性を借りて来てなでなですることは、愛妻家だから、しない。

 貞や、貞吉や、町内の薮井竹庵先生を呼んで来ておくれ、娘が長の患いで、と。 今朝、名医に診てもらったら、腹の中に何か思っている、徳利にきつく栓がしてあるようだ、と言われた。 普通の病気は駄目だが、機嫌を取るのがうまい、お幇間医者の薮井竹庵先生を、娘が気に入っていて、いつも連れて歩いている。

 こんちはー! どーーれ! 薬篭はいらない。 人の気を逸らさないお幇間医者。 先生に、徳利の栓抜きをお願いしたい。 そろそろお呼びがかかる頃かと思ってましたよ、察しがついている、お正月に私と婆やさんと三人で浅草寺にお参りに行った時、若旦那風のいい男がいた。 そうじゃない。 二月に梅見に行った時の、職人風のいい男か。 そうじゃない。 三月に向島に花見に行って、下駄の鼻緒が切れたのを直してくれた男か。 そうじゃない。 先生、だれにも話をしないかい。 本当に。 もっと、傍に寄って、もっと、もっと。 お気持は嬉しいけれど、私には妻と子がいる。 違うよ。

 三月に向島に花見に行った帰り、小さい黒い子猫を拾った。 その猫が、十日ほど前に死んでしまったんだよ。 それから三日目の晩、草木も眠る丑三つ時、枕許にいた婆やの目が大きくなったり小さくなったり、耳がとんがって、ヒゲがガァーーッと延びて、死んだ猫そっくりの形相で、私の顔から手から足から、ペロペロと舐めるんだよ。 それで眠れない、ご飯も食べられない。

 化け猫騒動、ニャンとかならないか。 番頭は、ニャンとも申し上げられない、と。 化け猫退治だ、店の者みんなで飲んだり食ったりして、その時を待つ。 草木も眠る丑三つ時、留、松、梅、源、行け。 留は、急な差し込みで。 松は、実家で猫を四匹飼っていて。 源は、親父が今わの際に、猫退治だけはしてくれるなと言い残しまして。 何日か前に、源さんの親父さんを見かけたよ。 番頭が、私が開けます、襖を一、二、三で、パッと開けると、もう出てる。 番頭がイヤーーンと言った。 婆やの背中から、黒い塊が飛び出して、みんなで追い回すと、外へ逃げた。 可愛がってくれたお嬢さんに悪さをするなんて、ひどく質の悪い猫でしたね。 そうだ、初めからあの猫は、お嬢さんを舐めていた。

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