〔ウォーナー伝説〕とGHQ民間情報教育局 ― 2006/05/12 08:00
米軍が京都・奈良など日本の古都の爆撃を控えたとする〔文化財保護説〕、そ のことを進言した恩人がウォーナー博士だという〔ウォーナー伝説〕を全くの 事実無根だとした吉田守男さんは、最後に〔ウォーナー伝説〕を創作したのは 誰かを探究する。 それは誤解や推測の産物でなく、一部にうわさとして存在 していたこの話を、GHQのある人たちが事実だと断定したからこそ、広く流 布されるようになった、とする。
敗戦直後、文部省国宝保存課の田中一松はGHQに呼び出され、民間情報局 のヘンダーソン中佐から京都・奈良に空襲のなかった“真相”を最初に聞かさ れた。 ヘンダーソンはウォーナーの教え子で、十年近く前、丸山応挙や渡辺 崋山研究のために来日し、田中とは旧知の仲だった。 戦前からウォーナーの 親友で、戦後〔ウォーナー伝説〕を広める役割を果した美術評論家の矢代幸雄 が、この話をヘンダーソン中佐に確かめに行ったところ、中佐は部下を集めて、 非公式の会議を開き、事実確認までしてくれた。 その部下たち、スタウト海 軍少佐、シックマン陸軍少佐、ポッパム陸軍一等中尉は、ロバーツ委員会の指 導の下に行われた遺跡・美術品・公文書調査活動の極東戦線=日本・朝鮮の担 当者で、スタウトとポッパムは兵籍に入る前はハーヴァード大学付属フォッグ 美術館の館員で、ウォーナーの部下だった。
吉田守男さんは、ヘンダーソン中佐やスタウト少佐らがGHQの民間情報教 育局(CIE)に所属していたことに注目する。 CIEは、情報、教育、宗教、文 化、芸術、世論調査および社会学的調査の分野で、占領目的を達成することを 任務にしており、その任務は日本人の「頭の切替え」と「再教育」、思想的改造 だったからだ。 CIEの任務は、宣伝によって、日本軍国主義の批判や、アメ リカのよいイメージ(アメリカ製の民主主義やアメリカ流の生活様式)の普及を はかることにあった。 米軍美化、米国美化の〔ウォーナー伝説〕の流布は、 CIEの宣撫工作の一環だったと、吉田守男さんは推論するのだ。
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