正朝の「藪入り」に喝采2007/02/02 07:07

 三年ぶりに息子が帰って来るってんで、父親の熊さんは眠れない。 おかみ さんに言う、あったかいおまんまを用意しろ、あいつが好きな納豆、腰の曲っ た婆さんの方じゃなきゃあ駄目だ。 今、何時だ。 12時。 焼き海苔、生卵、 おみおつけ(『広辞苑』によると「御御御付」と書く)、豆腐と油揚げ、さしみ、 魚金に言って中トロ、奴はうなぎも好きだな、中串を二本ばかり、俺もお相伴 しよう、てんぷらもいい、掻揚げを買っといで、洋食も好きだ、ビフテキにカ ツレツ、小豆を煮て、餅をいれよう、安倍川も好きだ。 甘納豆、南京豆に、 はじけ豆。 食傷しちまうよ、とおかみさん。 今、何時だ。 2時半。 奴 が帰って来たら、湯へ行かせてやろう、それからお寺参りだ、観音様と仲見世 も行こう、上野の鈴木さん、新宿の北村さん(席亭の名だろう)にも挨拶に行 こう、品川の松本さん(誰?)、そうだ川崎大師にも行こう、それから横浜、海 が見せてぇからな、鎌倉から江ノ島、豊川稲荷からお伊勢参り、京大阪を見て、 博多まで行こう。 何時だ。 3時回った。 まだ夜が明けないか、昨日は今 頃夜が明けたのに…。 もう御通夜にしよう。 5時になると、起きよう、ホ ウキ出せ、と普段はしたこともない掃除を始める。 近所の人は、熊さんが掃 除している、地震でも来るんじゃないか、と言う。

  「めっきりお寒くなりました。お父さん、お母さん、お変りございませんか」 と、すっかり大人びた挨拶をして、亀が帰って来る。 ここから、熊さんが風 邪を引いて、肺炎になり、家に帰れない亀が、手紙を書いたというあたりのや りとりが、泣かせるのだ。 正朝、とてもいい。 湯銭を出して、湯にやった 息子のがま口を、母親が見ると、折った5円札が3枚入っている。 最初の「や どり」にしては、多過ぎやしないかい。 熊さんも、そういえば鋭い目をして いる、と疑う。 湯から帰った亀を問いただして、ひと悶着、亀が泣く。 こ こで昨日の長い前振りが生きて、目を見ろ、澄んだきれいな目をしている、「こ れもみんなチュウ(忠)のおかげ」となる。 拍手、拍手。

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