雲助の「干物箱」前半2012/02/27 04:19

 吉原に夜泊り、日泊りで、親父に二階へ放り込まれた幸太郎、元気がない。  当の親父が心配して、町内のお湯屋でも行って来い、ただお前は「角兵衛獅子 の食もたれ、返(帰)えりゃあしない」から、三十分で戻らなければ勘当だ、と。  行って来ます、さよなら。 表はいいな、半月ぶりだ、親父も湯へ行けなんて、 気ィ遣ってやがら、親孝行してやろうか、肩でも揉むか。 で、三十分しない 内に帰ろうか、と思うんだが、これが駄目、外心がつく。 親父だと皺と話し ているようなものだ、吉原の女はいいね、会いたくなっちゃった、源公の人力 でも三十分じゃあ、行って帰ってくるだけで一杯一杯だ、勘当はいけないよ。

 何だ、神田のお玉ヶ池、前に二円で伝授した「カゴ抜けの法」はどうでした?  塩ザル (?) に蒲団をかけて、抜けだしたら、近所が火事で、親父が起しに来 た。 しからば、「身代わりの術」を伝授料・五円で。 貸本屋の善さん、声色 が上手い、大旦那も若旦那と間違えた。 奥から二軒目、きたねえ家だな。 善 公、いませんよ。 大家、米屋、魚屋、八百屋、薪屋、蕎麦屋じゃねえ、方々 に借りがあるんだな、俺だ、俺だ。 善公って、呼ぶのは、大家と若旦那ぐら い。 しまりがしてある、戸の左の上を押して、右下を引き、ちょいと持ち上 げるようにして、下を蹴っ飛ばし、ガラッと開ける。 開いた、箱根のからく り箱みたいな戸だな。 座布団代わりに、新聞紙を。 いらないよ。

 顔が見たいんだ、お前じゃないよ、吉原の花魁だ。 頼みがある。 若旦那 の為なら、命もいらない。 そうそう向島の植半の二階で、若旦那の声色をや った、隣の部屋に大旦那がいて、間違えた。 いやだ、駄目だ、もし見つかっ たら、胸倉つかまれて、池へドーーンと放り込まれる、大旦那は柔術をつかう。  風邪引いちゃう、命はいらないけれど、風邪は引きたくない。 羽織に、二円 つける。 やりましょう。 顕われや、しないでしようね。 そうそう、親父 の代わりに、運座へ行った話を聞くかもしれない。 「抜きは出たか」と聞い たら、「出ました」と、巻頭の句は「親の恩、夜降る雪に音もせず」、巻軸は「大 原女や、今朝新玉の裾長し」。 書いて下さい、四角い字はいけない、仮名で。  変な貸本屋だな。 俺の女が、善さんのご商売は? って聞くから、上野の山の モク拾い、コレラ病棟の番人…。 やめた、やめた。 羽織に、五円つけるよ。  やりましょう。