福を呼ぶ豆おもちゃ<等々力短信 第1032号 2012. 2.25.>2012/02/25 04:04

 〔1〕達磨や獅子頭が赤いのはなぜか? 〔2〕犬張り子とでんでん太鼓を出 産祝いの贈りものにする理由? 〔3〕「お門(かど)が多い」とは、どんなこと?  〔4〕「しめこの兎」の語源? 〔5〕狸が浅草名物といわれる訳は?

 浅草仲見世の宝蔵門近く、もうすぐ観音さまという右手に、慶應2(1866)年 創業、間口一間の江戸趣味小玩具の店「助六」がある。 小さな可愛らしいも のがあり、私も瓢箪の中から米粒大の独楽が出て来る洒落の「瓢箪から独楽」 や、今玄関に飾ってある全部が独楽の雛人形を求めたことがあった。 「助六」 五代目のご主人、木村吉隆さんが、学生時代のクラブ文化地理研究会の4年先 輩で、同じ落語会にずっと通っておられることを知ったのは、ごく近年のこと である。 昨夏亡くなったクラブの西岡秀雄先生のお別れの会で、三田の校舎 のトイレ帰りに一緒になり、初めてご挨拶をしたのだった。

 その木村吉隆さんが『江戸の縁起物』(亜紀書房)という楽しい本を出された。  お店に並ぶ三千点の小玩具の中から、約二百点を厳選、大きな写真と共に、語 り継がれてきた謂われや蘊蓄を語り、英訳もついている。 巻末に歴史「助六 物語」もある。

 木村さんは、直接的な表現は野暮で、一拍置くと粋や洒落になる、とおっし ゃる。 江戸からの縁起物の謂われは、知らないことばかりだった。 冒頭の 質問の答。 〔1〕「赤物」と呼ばれる、赤く彩色した人形やおもちゃは、江戸 時代、疱瘡(天然痘)が命にかかわる病気だった頃、赤が疱瘡除けの色と信じら れ、親が子供に赤いものを着せたり、赤い玩具を持たせたりして、疫病から守 ったことによる。 〔2〕犬は安産であり、生まれた子もきわめて丈夫に育ち、 独り立ちが早い。 太鼓の両側に糸で小鈴を結んでつるし、柄を持って振ると 鈴が太鼓の両面に当る「でんでん太鼓」、パチパチパチと裏表なく素直なよい子 に育つようにと。 〔3〕子供が生まれ、初宮参りに贈られる「犬張り子」の 数が多い家ほど、「お門が多い、つきあいの広い家」と、一目置かれた。 〔4〕 歌舞伎の「法界坊」で、法界坊たちが「しめたしめた しめこのうさうさ」と唄 う。 「兎を絞め」て食べられると、「しめた!」の地口。 〔5〕上野の戦争 で逃げ出した狸が浅草奥山に棲みつき、悪さをして、困りものだった。 伝法 院のご住職の夢枕に立ち、保護してくれれば、火災から守りましょう、と。 明 治16(1883)年、鎮護大使者として祀ると(鎮護堂)、火伏せと盗難除け、商売繁 盛を祈る人々で繁盛した。

入船亭遊一の「ぞろぞろ」2012/02/25 04:08

 23日は、第524回の落語研究会。 仲入にロビーで偶然、今日の短信に書い た「助六」の木村吉隆さんにお会いした。 実は第1回から来ていると言うと、 さらに先輩でやはり最初からの方がいらっしゃるという。 木村さんは、私の この会の仲間で、映画『エンディングノート』に出て来た、西村君とも顔見知 りだった。

「ぞろぞろ」      入船亭 遊一

「鼻ねじ」       古今亭 志ん丸

「干物箱」       五街道 雲助

        仲入

「小政の生い立ち」   柳家 喬太郎

「鼠穴」        柳家 喜多八

 開口一番の入船亭遊一は、来年で45年になる第1回(昭和43(1968)年3月 14日)の開口一番は大師匠の入船亭扇橋が、まだ柳家さん八の名で「千早ふる」 をやった話から始める。 前座が座布団を裏返し、めくりを改めることを、「高 座がえし」といい、舞台の転換でもあるという。 この会は二ッ目が開口一番 だが、前座が演ずる寄席では、自分で座布団を裏返す。 二ッ目に成り立ては、 つい自分で裏返してしまうという。 なぜ座布団を裏返すのか、前の人のぬく もりを嫌うからという説と、座布団の上に小さな虫がいたりして、知らずに座 ってしまう殺生を避けるためというガクセツ(楽説、楽屋の説)があるそうだ。  座布団の四辺の縫い目のない辺を客席に向けて出す、お客さんと演者、縁の切 れ目のないようにだと言い、変わった縁といえば夫婦の縁、神無月、出雲では 神有月に神様が集って縁結びの相談をすると、「ぞろぞろ」に入る。

 「ぞろぞろ」の概略は、正蔵が演ったのが<小人閑居日記 2007. 4.2.>に ある。 遊一は、出雲に神様たちが到着する時、帳付は「天神様、筆が立つか ら」といい、19の提灯屋の娘に、22の蝋燭屋の息子がちょうどよいからと結 び付けたりして、最後に3本残ったのを結んで三角関係。 終了後、神様の中 には出雲見物をして行くのもいる。 巫女さんに、好きよと言われて、いい仲 になっていたのが、やがては厭きて追い出される。 ずいぶん地元に帰ってい なかった、神社は荒れ放題、やっぱり地元にいなきゃあ駄目、代議士の気持が よくわかる。 そこへ、信心深い荒物屋の娘が、いい酒を納め、わらじがたん と売れますように、お父っつあんが長生きしますようにと、心底から祈りに来 る。