河豚(ふぐ)の毒について2012/07/26 01:51

 車谷長吉さんの『妖談』からの世間噺、雑学をもう一つ。 〔河豚の目玉〕 という話にある。 車谷さんは、関西のあちこちで料理場の下働きをした。 一 番上を料理場の芯といい、二番目を煮方という。 煮方を五年ほど勤めれば、 だいたい芯になれるのだが、給料が五倍ぐらいにはね上がり、嫁ももらえる。  だが、板場の世界も芯になれない人の方が多く、その場合は一生、下積みだ。

 河豚、特に一番美味の虎河豚には毒の部位が多い。 雌の卵巣(真子(まこ) ) は、一尾の真子で三百人が即死する。 雄の精子(白子)は特上の美味である。  ところがあらゆる魚には雌雄が混淆しているのが混じっていて、虎河豚の場合 は、白子の内部に真子を包んでいるものがある。 一萬尾に一尾ぐらいの確率 だが、河豚調理師は必ずこれを確認する必要がある。 目玉も毒、一個で人一 人を即死させる威力がある。 皮のぬめり、これも毒だ。 そのほか厄介なの は、肝である。 色が血の気の多い赤色なら大丈夫で、すこぶる美味だが、白 っぽい色なら必ず毒に中(あ)たって死ぬ。 あらゆる肝を客に出すことは法 律で禁じられている。 客の要求で、たまに出す料理人がいて、死ぬ客がいる。  料理人は肝の色を見れば、正確に判断できるので、安全な肝は自分で喰うてし まう。 迚も旨くて、河豚調理師免許を取得してよかったナと思う、のだそう である。

 食中毒は玉子焼き、浅蜊の味噌汁などにも多い。 玉子焼きは焼いた日に食 べないと、中毒が起こりやすい。 ある東京のホテルで、四日前に焼いた玉子 焼きで、六人の客が即死したことがある。 浅蜊の味噌汁も、浜名湖の旅館で 二十九人の客が中毒になり、十二人が即死したことがある。

 かつて私小説作家として「反時代的毒虫」を標榜した車谷長吉さんの、「毒」 の話である。

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