「源氏絵と伊勢絵―描かれた恋物語」展2013/05/14 06:47

 10日、出光美術館の「源氏絵と伊勢絵―描かれた恋物語」を見た。 入ると すぐ江戸時代に岩佐又兵衛の描いた光源氏(「源氏物語 野々宮図」)と在原業平 (「在原業平図」)、二人の貴公子の白いうりざね顔の肖像がある。 当時の『源 氏物語』の解説書には、「(光源氏の)好色の事は、在中将(在原業平)の風を まなべり」とあるという。

 紫式部は、色男・光源氏を主人公とした『源氏物語』を書くのに、在原業平 と目される男の一代記『伊勢物語』に多くの着想を得たとされる。 その関係 は、それぞれの物語を描いた絵画―源氏絵と伊勢絵にも及んでいた。 この展 覧会、土佐光吉没後400年記念と銘打っている。 源氏絵の優品を残した土佐 光吉は、天文8(1539)~慶長18(1613)年、桃山時代のやまと絵画家、堺 にあって狩野派とも関係を持ち、大坂城や御所の障屏画制作に参加したという。

 今年の本屋大賞、百田(ひゃくた)尚樹さんの『海賊とよばれた男』のモデ ルになった出光佐三の出光美術館が、立派な屏風絵を沢山所蔵しているのには、 あらためて驚いた。 私などには、五島美術館の国宝「源氏物語絵巻」などよ り、大きくてわかりやすい(扇面貼付屏風の絵は、五島のそれを想わせた)。 あ れは平安時代末期12世紀前半の作、今回の屏風の多くは室町から桃山時代、 そして江戸時代のものだ。 内容も、絵巻では見つけられない、『源氏物語』の 名場面(と、いっても、私などはよく知らないが)が描かれている。

 源氏絵と伊勢絵の関係の一例は、つぎのようになる。 「源氏物語図屏風」 (伝 土佐光吉)の「若紫」で、満開の桜の下、逃げた雀を追って縁先に姿をあ らわした美しい少女。 柴垣の蔭からその様子を眺めた光源氏は、たちまち恋 に落ちる。 これとよく似たシチュエーションは、『伊勢物語』初段に見られる のだそうだ。

 「伊勢絵の展開」のコーナーに、岩佐又兵衛の「伊勢物語 くたかけ図」(江 戸時代・重要美術品)が展示されている。 「くたかけ(腐鶏)」は「くだかけ」 ともいい、鶏(にわとり)をののしっていう語。 『伊勢物語』十四段に「夜 も明けばきつにはめなで「くたかけ」のまだきに鳴きて夫(せ)なをやりつる」 とある。 「夜が明けたら、水槽に投げ込んでしまわないでおくものか。鶏め がまだ夜も明けないうちに鳴いて、あの人を帰らせてしまったことよ。」という 意味だそうだ。 たいして美しくもない田舎の女だったらしい、醜女の深情け。  絵の業平は、つれなく去る。 『源氏物語』では、どこにあたるのか(解説は あったが、忘れた)。 落語の題にもある「明烏」や、伝 高杉晋作作の都々逸 「三千世界の鴉を殺し、主と朝寝がしてみたい」を思い出した。 日本文化の 伝統的素材である。