『花燃ゆ』の吉田松陰像は? ― 2015/02/03 06:34
「等々力短信」第1067号「松陰、ペリー黒船に密航図る」への反響を、も う一つ。 長野のFさんは、昨年12月の信濃毎日新聞から、コピーを二つ送 ってくれた。 28日のコラム「斜面」(朝日だと「天声人語」)は、NHK大河 ドラマ『花燃ゆ』で吉田松陰像はどう描かれるか、について書いている。
松陰は「時代によって評価が変転した人物である。「吉田松陰」(田中彰著) によると、国定修身教科書に本格的に登場したのは1933(昭和8)年。「忠君 愛国」を徹底し、軍国少年を育てる教育に使われた。松陰伝も出版され、熱狂 を巻き起こしている」「松陰は領土拡張を鼓舞する言葉も残した。それは門下の 手で実践に移され、太平洋戦争に行き着いた。敗戦で熱狂はいったんやんだが、 やがて松陰は復権する。松陰伝を通して少年を戦争に駆り立てた責任がうやむ やになったまま、再び書き継がれていく」「「花燃ゆ」の舞台山口県は安倍晋三 首相の地元だ。松陰を尊敬し、著書には言葉を引用している。登場人物の人気 は視聴率を稼ぐ大きな要素だろう。松陰を理想像のように、誰かにへつらって いるのかと、勘繰られかねない。」
もう一つのコピーは、21日の「転換期を語る」「日中は「徳孤ならず」で」 という、作家・井出孫六さんのインタビュー記事だ。 「論語に『徳孤ならず』 という言葉がありますよね。徳があれば孤独にはならない。ところが日本はい つもアジアの中で『孤』です。安倍さんが今の日本の『孤』の代表のようで、 同情したくもなる」。 (そして、「孤」の源流を問われ)「吉田松陰あたりでし ょうか。密出国に失敗し、西洋と不幸な出合い方をした松陰は獄中で手記を書 いた。隙に乗じてカムチャツカを奪い、朝鮮に貢ぎ物をさせ、北は満州の地を 割(さ)き、南は台湾、ルソンの諸島を収めてしまえと。彼を仰いだ若者たち が、後にこの浅い世界観を現実化していきます」。
私は、その手記がどこにあるか調べて、『幽囚録』にあることを知った。 「斜 面」子が、「領土拡張を鼓舞する言葉」と言っているのが、これなのだろう。 井 出孫六さんは、若い時に『歴史紀行 峠を歩く』(筑摩書房・1979年)を読んで、 感心したことがあった。 だが、私には「斜面」子の「松陰―松下村塾―領土 拡張鼓舞―門下の手で実践―太平洋戦争」「安倍首相―松陰を理想像―(NHK) 『花燃ゆ』―へつらい?」という図式は、ちょっとうがち過ぎのような気がす る。 そのへんのことは、また明日。
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