林家正蔵の「山崎屋」後半2018/05/05 08:13

 そこで相談だが、若旦那は本当に花魁に惚れているんですか。 花魁と所帯 が持てれば、遊びを止めますか。 世の中、表もあれば裏もある。 狂言を考 えましょう。 若旦那は、半年廓通いをお止めになれますか。 花魁を親元身 請けして、町内の鳶頭(かしら)の家に預かってもらう。 鳶頭のおかみさん がよくできているから、その妹で、お屋敷に奉公していたということにして、 しっかり仕込んでもらう。 若旦那には、店をきちんと手伝って頂く。 小梅 の水戸様にお掛け取りがあるが、あなた様に行って頂く。 財布を鳶頭のとこ ろに預けて、店に戻って、懐に財布がないと言うと、大旦那に怒られる。 そ こへ鳶頭が財布を拾ったと、届けに来る。 鳶頭の所に、大旦那がお礼に行き、 花魁がお茶を出す。 おかみさんの妹で、お屋敷に奉公していたが、どこか商 家に片付けたい、箪笥長持他の嫁入り道具に、持参金が三百両ある、と。 言 っちゃあなんだが、お父っつあんは欲深い、三百両に目が眩んで、あなたと花 魁が一緒になる。 偉い、お前は悪党だねえ。

 半年たったある日。 小梅の水戸様に百両の掛け取りがある、番頭が大旦那 に、よんどころない用があって私は行かれない、いかがでしょう若旦那様に行 っていただいたら。 油を背負って、火に飛び込むようなものだ。 若旦那は すっかり料簡を改めて、よくおやりです、万一駄目なら、百両は手切金とお思 いになって、夫婦養子をもらわれたらいかがでしょう。 一度は、試してみる か。 お父っつあん、小梅の水戸様に行ってきます。

 帰りに鳶頭の所に寄ると、おかみさんが、花魁実にいい人で、いま針仕事の お稽古をしています、と。 只今、戻りました。 番頭! 倅が戻って来たよ。  ご苦労だったね、掛け取りのお金は…。 (懐に手を入れ)はてな? あの時、 チャリンといったのが、そうだったのか。 友達の所に預けたな、どこに預け た。 ごめん下さい。 鳶頭か、取り込み中だ、後にしてくれ。 こちらも大 変な用で。 道で足にひっかかったものがある、こちらの財布でした。 助か ったよ。 番頭、あいつは本当に掛け取りに行ったんだ。 鳶頭にお礼を。 も う、お帰りになった。 ここはひとつ旦那様に、お礼に行って頂かなくては。  手ぶらはいかがかと。 行きがけに、半紙の一帖も。 エッ。 二帖かい。 十 両の目録を、一割がお礼の相場ですから、それと「にんべん」の二分の鰹節の 切手。 そんなにしなけりゃ、駄目なのか。 鳶頭は江戸っ子ですから、必ず や二分の切手を取る、私が請け合います。

 鳶頭、いるかい。 こりゃあ、旦那様。 話がある、改めて礼を言う、倅の 料簡が改まった。 これからだ、よく聞いてくれ、ここに十両の目録と「にん べん」の二分の切手がある。 いつもお世話になっております、夏冬には半纏 も頂いて、「にんべん」の二分の切手だけ受け取ります。 お茶をどうぞ。 き れいな人だね。 かかあの妹で。 似てないね。 ずっとお屋敷に奉公してい たんですが、商人(あきんど)に嫁ぎたいと申してまして、箪笥長持他の嫁入 り道具に、持参金が三百両、どこかいい所はありませんかねえ。 ありますよ、 ウチの倅はどうだろう。 あいつが貰わなければ、わしが貰う。 若旦那、遊 びを止めて、仕事に精を出されているそうで…。

 お父っつあん、お茶が入りました。 お前のお茶はうまい。 よく家に来て くれたね、本当の親のように孝行してくれる。 上総屋の旦那に、お嫁さんは お屋敷に奉公していたそうだが、どこに奉公していたのかって、聞かれた。 北 国ざます。 北のほうかい、加賀様だろ、ご大身だ、お女中も多いんだろうね。  三千人ざます。 お女中も道中はするんだろうな、駕篭で行くのか。 道中は するんざます、駕篭乗り物はならないんです。 三つ歯の高いぽっくりで、朝 は遅め、夕方に出て、伊勢屋ィ行って、尾張の、大和の、長門の、長崎の…。  おいおい男の足だってそんなに歩けない。 諸国を歩く六十六部、足の達者が 飛脚と天狗……お前には憑き物がした、六部に天狗が憑いたんだな。 いいえ、 三分で新造がつきんした。

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